第679話 グルターレ商会がやってきた(1)
「ひぇぇぇ~!」
エイデンの城に向かう時はシロタエの背に乗って山の道を行ったけれど、村へはエイデンに抱えられて、空を飛ぶはめになった。
空を飛ぶのは初めてではない。
それこそ軽トラを古龍の姿のエイデンに運んでもらったこともあるし、ドラゴンの姿のノワールに抱えられて飛んだことだってある。
しかし、イケメンエイデンに、お姫様抱っこされて空を飛ぶのは、なんか違うのだ。
がっしりした腕に抱えられて、不安定さはないんだけど、目を開けると目の前にイケメンの顔があるのだ。
見慣れた顔だろう、と言われるかもしれないが、こんな間近で見ることはない。小麦色の肌は艶々だし、まつ毛は長いし、なんかいい匂いがするし!
ノワールのお姫様抱っことは確実に違う。
――近い、近い、近い~!
ここまでされたら、目の前の美形を意識するな、というのが無理な話だ。
私はギュッと目を瞑り、さっさと村についてくれ! と内心願っていると。
「もう着くぞ」
エイデンが優しく声をかけてきた。
やっと着いた、と思って身体の力が抜ける。自分も相当、緊張していたようだ。
ゆっくりと地上に降り立ったエイデンが、私を下ろしてくれたけど、なんか、すごく疲れた。
「エイデン様にサツキ様」
私たちの元に駆け寄ってきたのは、 ボドルさんとドンドンさん。
「……サツキ様、大丈夫ですか?」
心配そうに声をかけてきたドンドンさんに、片手をあげて返事をする。
まだ、ちょっと、色々落ち着かないのだ。
「ドンドン、エルフが来ると精霊たちが言っていたのだが」
その代わりにエイデンが問いかける。
「はい。もう防風林の先に馬車を確認しております」
村の周辺は、すでに水は引いていて、ぬかるみもない。舗装はされてなくても、泥の中を走るよりは、だいぶマシになっているだろう。
キャサリンたちが来る前に、もう一度街に買い出しに行くべきか考えていただけに、色々買い足せそうなのは、ありがたい。
しばらくすると、村の正門が開かれ、馬車が続々と入ってきた。
合計で7台ほどの大きな馬車に、馬に乗った見覚えのある護衛の冒険者たちもいる。
ドンドンさんたち、村の主だった男性たちが、彼らがいつも泊まる建物のほうへと案内している。
「サツキ様! お久しぶりです!」
先頭の馬車から、カスティロスさんが下りてきた。
相変わらず美形エルフの姿に、孤児院の女の子たちはキラキラした目で見つめている。獣人の女性たちはエルフたちの独特な匂いのせいで近寄らないが、私たちのような人族には感知できないので、女の子たちには関係ないのだ。
「お疲れ様です。雨は大丈夫でしたか?」
「ああ、酷い雨だったようですね」
カスティロスさんたちは、今回は獣王国内を巡ってから、コントリア王国に入ってきたそうで、あの酷い雨は、国境付近も通過したらしい。
「おかげで、途中の道が水没して、しばらく足止めをくらってしまいました」
予定ではもう少し早めに村に来るつもりだったらしい。
「その代わり、獣王国の商品は多めに仕入れてきましたから、どうぞ、ごゆっくりご覧ください」
カスティロスさんの言葉に、期待が膨らむ私なのであった。





