第675話 ドッグランと田んぼと、大きな川
バシャバシャと、シロタエたちが泥の道を走る。はねあげた泥は、シロタエの風の魔法ではじいてくれている。
牧場へと向かう道は、水たまりがいくつもできていたが、水没はしていなかった。
マカレナたちやヨシヒトさんたちの家や厩舎は無事のようで、家の周りの枝やゴミを片付けをしていた。
――この様子だったら、ドッグランも水没はしてないかな。
私の予想どおり、牧場周辺はぬかるみはしても、水没状態にはなっていなかった。
『厩舎の中も、大丈夫そうですね』
シロタエに乗ったまま、厩舎の中を覗くと、ホワイトウルフの子供たちが、数匹固まってお昼寝をしていた。
親たちはしばらく狩りに行けていなかったこともあり、子供たちを残して出かけているそうだ(シンジュ情報)。
とりあえず、無事な様子にホッとしたけれど、次に気になるのは田んぼ。
孤児院の子供たちや、村の女の人たち皆で、田植えをした田んぼ。ちょっと植え方が波打ってしまっているところもあったけれど、それほど酷いものではなかったのを覚えている。
「おおお……」
林を抜けたところは、すっかり水浸しになっていた。
シロタエとシンジュの足先は完全に水の中。
目の前の稲の三分の一ほどが、横倒しになっている。まだ稲穂は出ていないので、稲穂までが水没していなかっただけ、マシなんだろうか。
何株か束ねて縛れば、なんとか起こせるだろうか。タブレットの『収納』に麻紐があった気がするので、後で倒れた稲を起こす作業をやらないとダメだろう。
周りを見渡すと、山の湧き水からの小川や、ドッグランからの水路からもジャバジャバと水が溢れているのが見えた。この一帯が水浸しの原因の一つかもしれない。
ありがたいことに、大きな川のほうからは逆流していないようだ。
「川のほうは、どうなってるかな」
『土手まで行ってみましょうか」
「お願い」
シロタエはビョーンっと飛んで、エイデンが作ってくれた土手の上に立つ。シンジュはシロタエのようには飛べないようで、水の中を走って追いかけてきた。
私はシロタエの背から降りて、目の前の川の様子を見る。
この川は、北東のほうから流れてくる大きな川で、前に見た時と比べても、あまり変わりはないように見える。
――上流のほうは、雨は降らなかったのかな。
あの激しい雨は、北上していったのか、そのまま消えてしまったのか、わからない。滅多にないこととはいえ、こういう時には、天気予報なり、雨雲レーダーみたいなのがあればいいのに、と思ってしまう。
私はバッグからタブレットを取り出し、『地図』を開いて見る。
相変わらず、この『地図』はあちらにある世界地図のようには使えない。
とりあえず、私の土地がある場所は反映されるようで、ビヨルンテ獣王国やドグマニス帝国、ジェアーノ王国までは見ることはできた。
目の前の川は、帝国の国境に沿って流れているようで、上流は帝国とジェアーノ王国の国境の山にある、かなり長い川だ。
私はタブレットの『ヒロゲルクン』をたちあげると、湧き水の小川の川幅を広げていく。小川からの水量が増して、濁った水が川のほうへと流れ込んでいく。
ドッグランの水路は田んぼに繋がっているから、これは一時的に小川のほうに排水したほうがいいかもしれない。
『ヒロゲルクン』で簡易的な排水路を作っていると、水の精霊たちが集まってきた。
『もっとながす?』
水の精霊が私の耳元で聞いてくる。
「大丈夫でしょ。少し様子を見るよ」
『わかったー』
『ちぇー』
『どばーってやりたかったのにー』
なんか怖いことを呟いてる精霊もいたけれど、私は水浸しだった土地から、少しずつ水が引いていく様子を見て、少しだけホッとした。





