第674話 村の周辺は、なかなか凄い状態だった
正門のそばにある物見櫓から外を見て、しばらく呆然としてしまった。
「……ウユニ塩湖?」
石壁の中は水がひいているのに、外側は鏡のように水がはっている状態なのだ。門を開けたら、そのまま水が入り込んできそうなので、門は閉まったままだ。
実際、一度開けてみたら、水が流れ込んできたので、慌てて門をしめたらしい。さすが獣人。流れ込んでくる水に対して、よく門を閉められたものだ。
私も門を開けてみようと手を伸ばしたところで、獣人たちに止められて、物見櫓に上ることにしたのだ。
ここから見える範囲の教会などの建物は壊れている様子もなく、せいぜい床下浸水くらいのようで、なんとか無事のようだった。
水面からにょっきりと防風林が生えている姿は、なんだかシュールな感じだ。
――どのくらいの範囲がこんな状況なんだろう。
これは、水が引くまで時間がかかりそうだし、この状況じゃ、キャサリンたちもどこかで足止めをくらってるかもしれない。
ぐるりと見渡していると、南を流れる川の土手のほうへ目を向ける。
私の目で確認できる範囲では、決壊しているようには見えない。もしかしたら、エイデンの土手が切れたところから溢れていたりしないだろうか。
「……あ!」
今更ながら、山裾にあるドッグランや、マカレナたちやヨシヒトさんたち牧場組、そして土手のそばに作ってある田んぼの状態が気になりだした。
こうして見るまで、まさか、ここまで酷い状態だとは思いもしなかったのだ。
「ビャクヤッ……と、今はいないんだった」
思わず名前を呼んでしまった。緊急時となると、まずはビャクヤの名前を呼んでしまう癖がついてしまっている。
いかん、いかん、と頭を振ると、シロタエの名前を呼んだ。
『どうかされましたか』
物見櫓から下りてしばらくすると、立ち枯れの拠点のほうから大きなホワイトウルフが走ってきた。シロタエと一緒にきたのはシンジュのようだ。
急いで来てくれたようで、二匹とも、普段綺麗な真っ白の毛並みに所々に泥のはねがついている。
「ごめんね。ここのところの雨が酷かったから、ホワイトウルフたちは大丈夫だったかな」
『まぁ。五月様に気にしていただくなんて』
フフフと嬉しそうに笑うシロタエ。シンジュも嬉しそうに尻尾を振っている。
『かなり酷い雨でしたからねぇ。ほとんどの者は五月様の山の中に避難しておりましたよ』
「そうなの? ドッグランのほうは」
『あちらには小さい者たちがおりましたが』
「え、でも、水は!? 村の中もかなり浸水してたみたいだけど、大丈夫だったの!?」
『まぁ。五月様がお作りになったドッグランですよ?』
「いやいやいや」
シロタエの信頼感が辛すぎる。
そう言われると、私の方は不安しかない。
「牧場のほうも気になるから、連れてってくれる?」
『当然ですわ。どうぞ、背中に』
「ありがと」
私はシロタエの背に乗ると、牧場のある山裾のほうへと向かってもらった。





