第672話 村の様子と、エイデンの城
誰が来たのかと、トンネル側の道の門を開けに向かう。
「サツキさま~!」
この声はテオだ。
門を開けてみると、そこには、テオを先頭に、マルと兎獣人のニコラが走って来る姿が見えた。
前だったら、先頭を走っていたのはガズゥだったのに、と思って、寂しい気持ちがよぎったのは一瞬。
なにせ、テオの顔がかなり必死な感じなのだ。
「どうしたの。村で、何かあった?」
そう声をかけながら、敷地の中へと誘う。
山道を走ってきた三人とも、足元は当然のこと、Tシャツまで泥がはねている。これは、ママ軍団が嫌な顔をしそうだ。
「ハァハァハァ、ここは、だいじょうぶそうだね……っていうか、ここはあめふらなかったの?」
乾ききった地面の様子に驚くテオ。
「うん、うちは大丈夫。精霊たちに、綺麗にしてもらったの」
「すげー」
「さすがー」
「せ、精霊ですかっ!?」
驚くニコラをよそに、テオとマルは敷地に入って、すげー、すげーと感心している。
「テオ! マル!」
ノワールが二人の名前を呼びながら、トテトテと駆け寄っていく。その後をゆっくりついてくるマリン。
ちびっ子達が嬉しそうに抱き合っている姿は可愛いのだが、彼らの来た目的は何だったのか。
チラリとニコラのほうを見ると、ハッとした顔をした。
「実は、む、村のほうで水堀が溢れちゃって」
「そうだった!」
ニコラの言葉に、慌てて私の元にやってきたテオ。マルはノワールと手を繋いで暢気に何やら話してる。
「いえのなかまではあがってこなかったんだけど、そとは、おれのあしくびくらいまで、みずがたまってるんだ!」
「村の中は、まだ水浸しで……」
床上浸水までには至らなかったと聞いて、ホッとする。
山裾の洞窟のような家に住むドワーフたちは大丈夫だったのか聞いたら、家のドアの前に土嚢を積んでいたそうで、水は入ってこなかったらしい。
「畑のほうは」
「はい、雨の間、確認しにいった人が言うには、水没していたようなんですけど、今はすっかり水もひいてます」
それを聞いてホッとする。
畑の被害もそれほどでもなかったようだし、人のほうも皆無事ということで、彼らは何を焦って来たのだろうと、不思議に思っていると。
「村のほうは大丈夫なんですけど……」
「そうだ!」
「そうだった!」
「うん?」
「エ、エイデン様のお城が!」
「おしろがこわれた!」
「えっ!?」
どうも、あの激しい落雷は、エイデンのお城に落ちたらしい。
落ちた場所は、城の中で一番高いところにあった尖塔。避雷針でもあれば違ったのかもしれないけど、尖塔に直撃。壊れた壁が飛散して、なんと、うちの立ち枯れの拠点にまで飛んできているらしい。
建物の被害はないものの、石の欠片が落ちているそうだ。
肝心のエイデンはどうしているのかというと、ボドルたちと一緒に、エイデンの城のある山のそばのダンジョンに潜っているらしく、まだ戻ってきていないらしい。
――自分の家がボロボロになっているというのに。
呆れながらも、戻ってきて、私に泣きついてきそうな姿が一瞬浮かぶ。
いやいやいや、と頭を振って、その想像をかき消す私。自分で建てた城なのだから、自力でなんとかするだろう。
そもそも、エイデンの城まで、道もないのに、どうやって行けばいいのだ(そのせいで、一回も城まで行ったことはない)。
それよりも、気にしなくちゃいけないのは、立ち枯れの拠点と、村のほうだ。
「ちょっと、様子を見に行かないとダメだね」
本来ならスーパーカブで行きたいところだけど、ぬかるんだ道を走る勇気はない。
「蒸し暑くなる前に、歩いて行くかぁ……」
はぁ、と重いため息をつく私なのであった。





