第671話 雨上がりの敷地では
土砂降りは二日ほどで止んだ。
ログハウスから出て、見上げた青空は雲一つなく、気持ちいい。まだ朝のうちなので、暑くはないけれど、昼頃には蒸し暑くなることだろう。
Tシャツにハーフパンツ姿の私は、思い切り伸びをして、目の前の惨状に現実をつきつけられることになる。
二日間の土砂降りのせいで、石畳は泥だらけに、地面も水浸しになっているのだ。ぬかるんでいるだけなら、まだいい。しかし、目の前には、いくつもの水たまりができている。
ずっと家の中にいたマリンとノワールは、私が止める声をあげる間もなく、その水たまりに飛び込んで、これまた見事に泥まみれになった。
私が注意したところで、夢中になっている彼らが止まらないのは学習済みなので、自由にさせておいた。
しかし、地面がぐっちゃぐちゃな状態は許せない。
彼らが満足するのを待つことなく、私は周囲にいる精霊たちにお願いすることにした。
「水の精霊さん、土の精霊さん」
『はーい』
『なーにー』
私の声かけに、一気に精霊たちが集まった。ちょっと多すぎて、腰が引けたのは、ご愛敬。
「えーと、水の精霊さんは、この敷地の地面の水分をなんとかしてほしいんだけど」
『いいよー』
「あ、あんまり、カピカピにならないようにね!」
『カピカピ?』
「そう、泥だらけになる前の水分の状態まで、戻してほしいの」
『あー、なるほどー。じゃあ、これくらいかなあ』
そーれ、と水の精霊たちの掛け声とともに、地面から白い靄が一気に吹き上がった。
「うわぁ!?」
見える範囲の地面はイイ感じに乾いたようだけれど、その場にいた私やマリン、ノワールは白い靄のせいでびしょ濡れ。
『ありゃ』
『へたっぴー』
そう言いながら、楽しそうにキャラキャラ笑っている精霊たちと、マリンとノワールまでもが嬉しそうに走り回っている。
私は、右手で濡れた顔を拭うと、大きなため息をつく。
「はぁ……それじゃあ、土の精霊さんは地面をお願い」
『うん、たいらにすればいいんだろ?』
「そうそう。ほら、ドッグランの剥き出しの地面のところ、凸凹になっているのをならしてくれたことがあったじゃない?」
ウノハナたち三つ子が小さい頃、ドッグランの地面を荒らしたのを例えに出すと、ああ、あれか、とクスクス笑う土の精霊たち。
『じゃぁ、いっくよ~』
地面すれすれのところを列をなして飛んで行く土の精霊たち。綺麗に土をならしてくれているようで、ホッとする。その後をマリンたちが追いかけていては、綺麗な土も台無しなんだけど。三つ子の酷さに比べれば、まだ可愛いものだ。
畑のほうを見ると、植えてあった野菜たちは、くたりと倒れかかっている。まだ緑がかっているトマトや、小さなキュウリまで、地面についてしまっているし、桜や柿の木の小さな枝や葉も落ちている。
うちの敷地は結界で雨の勢いが削がれるはずなのに、これは、相当、酷い雨だったようだ。
山の斜面のほうにも目を向けると、ちょろちょろと水が流れているのが見える。せっかく乾かしてもらった地面も、これではまた湿ってしまいそうだ。排水路を用意しないとダメかもしれない。
眉間に皺をよせながら、地面に落ちている野菜を拾っていると、トンネル側の道をバシャバシャと複数の足音が聞こえてきた。





