第670話 土砂降りと雷
朝早く、土砂降りの雨の音で目が覚めた。
昨日のうちに村の石壁周辺まで草刈りは終えているけれど、この激しい雨音の感じだと、道が酷くぬかるんでいそうだ。
あの道もログハウスの敷地の道のように石畳にしたほうがいいかもしれない。
そういえば、大きな川の近くに作った田んぼは大丈夫だろうか。
エイデンが作った土手があるから川が決壊するようなことはないだろうけど、山から流れる雨水で水没してしまったりしないだろうか。
ホワイトウルフの毛梳きをしている村のジジババたちと、ママ軍団が時々様子を見てくれてはいる田んぼ。今のところ順調に育っているけど、この雨だと少し心配になる。
いつもより肌寒く感じて、腕をさすりながら、薄暗い1階へ下りて窓から外を見る。
「うわー、酷いな」
カーテンを開けた窓から見える景色は、雨の勢いで真っ白なくらい。あちらでいうゲリラ豪雨の勢いだ。これほどの雨だと、どこかで土砂崩れとか起きないといいな、と不安になる。
稲荷さん(正確にはイグノス様)から買った土地全てのメンテナンスが出来ているわけではないから、どこが危険な場所なのか、までは把握しきれていないのだ。
――そういえば、炭酸の出るところ、大丈夫だろうか。
私の持ち山のうち一番北にある山で見つけた、炭酸の出る湧き水のある場所は、山の斜面にあった。
雨が止んだら、確認しに行かないとダメだろう。ついでに、今まで気にしてなかったところも、見て回ったほうがいいかもしれない。
キャサリンたちが来る前に、私一人で全部を見て回るのは難しいから、村人たちにお願いしたほうがいいかもしれない。
「五月、外に行くの?」
窓際に立っていたせいか、マリンが問いかけてきた。
二階から下りてきた私の足音のせいか、人感センサーで点いてしまった明かりのせいか、起きてしまったらしい。まだ眠いのか、目を擦りながら私のそばまでやってきた。
マリンとノワールの二人は、セバスのいるリビングで寝ている。離れ用の布団を1枚だけこちらに持ってきて、1枚のタオルケットを二人で使っているんだけど、今はノワールが抱きかかえて寝ている。
「さすがに、この天気で外には行かないよ」
私は窓際から離れると、キッチンに向かう。
今日の朝ごはんは、目玉焼きとソーセージ、作り置きしているポテトサラダに、トーストだ。
「朝ごはんだよー」
「はーい」
「……むー」
三人で食事をしながらも、豪雨が気になって窓へと目を向けていると。
ピカッ
いきなり、窓の外が真っ白になったかと思ったら、
ドーンッ
お腹に響くような激しい落雷の音が響いた。
「うわ、雷!」
こちらに来てここまで激しい雷は体験したことはなかった。
思わず体がびくりとはねる。
「凄いね」
それでも暢気に二人に声をかけたのだけれど、マリンとノワール、二人とも固まっていた。セバスに至っては立ち上がって、部屋の隅でお尻をツンとあげて腰が引けてる姿が、ちょっと笑える。
「おーい?」
「び、びっくりした」
「なんだあれ!」
「べぇぇぇ!」
食事中だったのに、フォークを置いて二人は窓際に駆け寄って外を見にいってしまった。
私はサッサと自分の分を食べ終えると、「早く食べちゃって~」と二人に声をかける。二人は慌てて席に戻って食べ始めたけれど、窓のほうをチラチラ見ていて、雷が気になって仕方がないようだ。
その間、何度かピカピカゴロゴロやっていたけれど、先程のような激しい雷はなかったのでホッとした。
光と音の感じから、かなり近いところで雷が落ちたようだけれど、村のほうは大丈夫だろうか。
食器を洗いながら、外の様子が気になる私なのであった。





