第668話 稲荷さんからの『お土産』という名の『貢物』
大地くんが来た翌日の朝には、キャンプ場で忙しいはずの稲荷さんが、色んなお土産を持って挨拶にやってきた。
「ほんと、すみません」
首にかけたタオルで額の汗を拭いながら、謝り倒す稲荷さん。
今回お持ちいただいたお土産は、メロンとスイカを段ボールでそれぞれ3つずつ。ビールや洋酒、日本酒に至っては樽で持ってきてる。
他にも子供たち用なのか、某子供服専門店のショッピングバックが山積みになっている。
メロンもスイカも、うちの畑では育ててないので、ありがたい。
お酒や子供服関連は、村人たちへの差し入れということだろう。軽トラの荷台がお土産で溢れている様子に、稲荷さんなりに、かなり気を使っているのが見て取れる。
昨日のうちに買いに行ったのだとしたら、キャンプ場の忙しい時期なのに、こちらのほうが申し訳なくなってくる。
「大地のことですから、ギャジー翁のところで魔道具作りで籠ってるとは思うんですがね」
奥さんと娘さんのほうが心配だったらしい。
大地くんに出禁の話をしてあるものの、マメに連絡するなり、顔を出しに行くなり、と念押しをしておいたほうがいいかもしれない。
「何かありましたら、すぐに駆けつけますんで!」
それだけ言うと、キャンプ場が忙しいらしく、稲荷さんはお土産だけ置いて帰っていった。
心の中で、こっそり応援だけしておく。
「……さて、さっさと『収納』しておこうか」
ログハウスの前に山積みされていた荷物をしまうために、家の中に置いてあるタブレットをとりにいく。
「稲荷、帰った?」
風呂場のほうから、ひょっこりと顔を出したのはノワール。
「うん、帰ったよ」
どうも子供の姿を見られるのが嫌らしい。可愛いのに、と言っても、稲荷さんに揶揄われるに決まってると言って、隠れてしまっていたのだ。
「ねぇ、五月、すごく甘い匂いがするんだけど」
ノワールと一緒に隠れていた、未だに人の姿のままのマリンが、鼻をクンクンさせている。
二人とも、お揃いのTシャツにハーフパンツ姿だ。
「この匂いはメロンかなぁ」
「めろん?」
「めろんって何?」
『収納』する前に、段ボールを開けてみると、中に入っていたのは、立派なマスクメロンが8個。甘い匂いが、もわっと溢れる感じだ。
「うわ、これ、すごいイイヤツじゃない?」
手に取ってみると、ずっしりとした重みがある。
――稲荷さん、かなり奮発したな。
思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「凄く甘い匂い~!」
「ねぇ、ねぇ、食べちゃダメ?」
私と一緒に段ボールの中身をのぞいていた、ノワールとマリンにせかされて、ログハウス前の荷物を『収納』すると、すぐに家の中に入る。
1個だけ取り出して、冷蔵庫にしまう。ちなみに、水の精霊にこそっと、早めに冷やしてくれるようにお願いする。
「えー、なんでー」
「食べないのー?」
「冷たくしたほうが、もっと美味しくなるのよ」
「そうなの?」
「そうなの」
二人を宥めながら、再び『収納』してある物をチェックする。
子供服は、ノワールとマリンにも着られそうな物があるようなので、リビングにショッピングバックごと出した。
「この中から、欲しいのを選んでくれる? 残ったのは村に持ってくから」
「いくつ選んでいいの?」
目をキラキラさせているのはマリン。ノワールは関心がないのか、セバスのほうへと歩いて行った。
セバスは最初から無関心で、部屋の隅で寝ている。
「村の子たちのことも考えてよ」
「わかってるわ!」
マリンと同じ5、6歳の女の子もいるので、あんまり彼女が貰ってしまうと、バランスが悪くなる。
結局、青と白のストライプのシンプルな半袖のワンピースを選んだマリンは、すぐにその場で着替えてしまった。
「似合う? 似合う?」
メロン用の食器皿を出している私の足元にやってきて、くるりくるりと回って見せるマリン。
「うん、可愛いね。でも、メロン食べるんだったら、汚れちゃわない?」
「あ!」
慌てて、Tシャツにハーフパンツに着替えなおしたマリンなのだった。





