第664話 洗濯機と冷蔵庫、生意気セバス
食器を洗っている間、マリンは私のお手伝い。ノワールはセバスにタックルしている。
当のセバスはというと。
「ベェェェ!」
「あうっ!」
かなり不機嫌そうな声をあげて、ノワールに頭突きをくらわしている。
それなのに、キャッキャッと笑い声をあげながら、めげずにタックルを続けるノワール。よっぽど、楽しいのだろう。
洗った食器を布巾でふきながら、鼻歌を歌うマリン。自分の『人の手』で物を扱うのが、楽しいらしい。
「あとは何をすればいい?」
他にもやれることがないか、と期待の眼差しで見上げてくる。
「そうねぇ。洗濯物をたたむのを手伝ってもらおうかな」
「やるわ!」
両手を握って気合をいれるマリン。ちょっと可愛い。
私たちは風呂場のそばに追加したランドリールームへと向かう。
『タテルクン』のリフォームメニューで追加したその部屋には、ドーンとドラム式洗濯機が置いてある。これは、前にレィティア様から頂いた魔道具のドラム式洗濯機で、乾燥機能までついているのだ。
他に大きな籐籠とタオルが積んである四段の木製シェルフも置いてある。
「もう終わってるね」
洗濯機の蓋を開けて、乾いた洗濯物を取り出し、籐籠に入れていく。
「はい、リビングに持ってって」
「任せて!」
子供の体のマリンは両手で抱えながら、んしょ、んしょと運んでいく。
――可愛すぎるんですけど……。
ニマニマしながら彼女の後をついてリビングに戻ってみれば、ノワールはセバスの下敷きになっていて、足先だけがジタバタしているのが見えた。
「何やってんのよ」
「ベェェェ」
「ウザいから、潰してるんだって」
「ンー、ンー!」
マリンは呆れながら説明するけれど、セバスの下からノワールの籠った声が聞こえてくる。
「そんなに遊びたいんだったら、外に行ってくれば?」
「ベェェェ」
「暑いから嫌だって」
「ここで、バタバタしてるのだって、暑くなるでしょ?」
卓袱台のせいで狭くなってるリビングなので、セバスのもこもこ具合が、余計暑苦しく感じるのだ。
「だったら、離れで遊んでれば?」
あちらは、卓袱台がない分、広々としているはずだ。
「ベェェェ」
「そもそも、ノワールの相手をするのがウザいから嫌みたいよ」
そう言いながら、器用に洗濯物(主にタオル類)をたたんでいくマリン。
「上手ね」
「ふふん、いつも五月のやってるのを見てたもの」
得意げなマリンのそばに、セバスが並んで座る。ノワールは汗だくになって、ダウンしていた。
私はため息をつきながらキッチンに行くと、冷蔵庫から麦茶を出した。
以前、ギャジー翁と大地くんで合作した魔道具の冷蔵庫。業務用サイズだったのが、今では一般的な家庭サイズ2ドアの冷蔵庫にまでサイズダウン。しっかり我が家の冷蔵庫となっている。
冷えた麦茶を三人分用意して、その一つをノワールに渡す。卓袱台の端にマリンの分を置いてから、自分の分を手にコクリと飲みつつ、ちらりと大人しく座っているセバスに目を向ける。
――これで、セバスまで人化したら、どうなっちゃうんだろう。
この子は卵から孵ってそれほど経っていないから、もし人化したら赤ん坊になるんだろうか。それはそれで、面倒な気がする。そもそも、この子は人化できるんだろうか。
チロリとセバスの目が、私に向けられる。
シシシシッ
音もなく歯を剝きだして嗤うセバス。
――生意気なんですけど!
イラっとするのは、私だけではないと思う!





