第659話 買い出しに行こう <ケイドン>(7)
ギャジー翁が戻ってきた。
かなり不機嫌そうなので、どうしたのかと聞いたら、あまりにも薬の効き目が良すぎて、ゾックじいさんが目覚めて起き上がりそうになったらしいのだ。おかげで、その場にいた医者や衛兵たちが、大騒ぎ。
まずいと思ったギャジー翁は、ゾックじいさんに注意が向いているうちにと、気配を消して逃げてきたらしい。
「気付かれたら面倒ですから、さっさと行きましょう」
「はい……」
面倒ごとを押し付けてしまった気持ちはあるので、素直にその場から離れることにした。
その後は、以前お世話になったガラス屋に立ち寄って板ガラスを数枚買った。前公爵たちが泊まれるような、大きなログハウスを用意しようと思ったからだ。
そしてガラス屋で勧められた雑貨屋と布を取り扱っている店で、それぞれ食器と布の束を数本まとめ買いした。
正直、質やデザインの点でいえば、あちらの商品のほうが断然いい。
しかし、貴族相手にそれを出したら、まずそうなのは私だって予想がつく。
キャサリンのおじいさんだからきっと大丈夫、なんていうのは甘い見通しだろう。万に一つ、おじいさんは大丈夫でも、そばにいる人達が絡んでくる可能性はないとはいえないのだ。
あちらの商品で商売をするというのもアリかもしれないけど、今はお金にそれほど困っているわけではないし、お金のことであくせくしたくはないなぁ、と最近思うようになった。
こっそり心の中で、エイデンたちに感謝しておこう。
「他に買いたい物はない?」
エイデンは言うまでもなく、ニコニコしているだけで、ギャジー翁とモリーナは魔道具以外は興味がなかったようで、あの店と街の観察で十分だったらしい。
「サツキ様」
ザックスが恥ずかしそうに手をあげた。
「あの、あそこのアクセサリーの店に行ってきてもいいですか」
「へ?」
男の子がアクセサリーをつけるのは、ガズゥやネドリも毛先に髪飾りを着けてるので、普通にありそうなこと。だから照れるほどではない、と思ったのだけど、ザックスが指さしたのは、女の子たちが好きそうな可愛らしいお店。
「サツキ様、こいつ、メイにプレゼントしたいんだぜ」
「おい、マーク!」
メイって誰、と思ったら、牛飼い一家のヨシヒトさんの妹さんのことらしい。いつの間に、そんな仲になってたんだ、と驚いた。
確か、妹さんはまだ独身で、ザックスたちと年が同じくらいだったはず。
「お、お前だって、ニコラが可愛いって言ってたじゃないか!」
今度は兎獣人のニコラの名前が出てきた。二人が顔を赤くしながら、わきゃわきゃやっている姿に。
――甘酸っぺぇ…・・。
思わず、生温い目で二人を見てしまうのは、仕方がないと思う。
「ほら、早く行って見て来れば」
「す、すみません。おい、行くぞ」
「俺はいいよ」
「マーク、行ってきな」
ニッコリ笑って背中を押すと、照れくさそうにペコリと頭を下げてかけていく。
「でもさぁ、アクセサリーだったらアビーも作ってるよね」
「作ってますけど、ちょーっと高級というか……あの子たちの予算のお値段では難しかったみたいですよぉ」
実は、一度店に見にきたことがあったらしく、値段を見てがっくりと肩を落として帰ってしまったらしい。
若者には若者らしい、身の丈にあった物がいいってことだろう。
「俺も見にいこうかな」
「エイデン、私は十分よ」
「うっ」
そろりとザックスたちの後を追おうとしていたエイデン。
すでにダンジョンのお宝だとか、遠方にいったお土産だとかで、色々貰っている。私はニッコリと笑って腕を掴んで引き止めたのだった。





