第656話 買い出しに行こう <ケイドン>(4)
しばらく待っていると、衛兵を二人連れてきたザックスたちが戻ってきた。一人は二十代半ばくらい、もう一人は十代後半か。若い方がザックスたちの知り合いのようだ。
「で、魔術師様というのは」
二十代のほうの衛兵が聞いてきた。
どうもギャジー翁のことを『魔術師』と説明したらしい。ギャジー翁が手を上げる。
「どうも奥の家の2階が少々怪しくて」
「奥というと」
「ここから数えて4つ目のドアのあるところの2階です」
ギャジー翁の言葉に頷いた衛兵は、もう一人の若い衛兵と一緒にドアに向かった。
ドンドンドン
「……やはり反応ないな」
「ここって、ゾックじいさんのところじゃ」
「ゾックじいさんって、魔道具屋のか」
「はい。今は、甥っ子とか言ってる男が店番を任されてるって話でしたよ」
路地の奥にいる二人の会話が、なぜか私にも聞こえてくる。目の端に風の精霊の姿が見えたので目を向けると、『てへぺろ』とかやっている。
おかげで、あの魔道具屋の中年男性がおじいさんの身内らしいことがわかった。
「ゾックじいさん、おーい、いないのかー」
「右隣の夫婦は、今は店に行ってるし、左隣は空き家か」
「仕方ない。万が一ってこともある。ドアを壊すか」
そう言いながらも、少しばかり困った様子。エイデンだったら嬉々としてぶち壊すだろうけど、さすがに衛兵たちには常識があるようだ。
「あの、よろしければ、私が開けましょうか」
衛兵二人の会話に入ったのは、ギャジー翁。
「この程度のドアでしたら、私の魔法で開けられますから」
ニッコリと笑うギャジー翁に、衛兵二人は心なしかホッとした様子。
「助かる。この辺りの家は、ソロン男爵の持ち物でな」
ソロン男爵というのは、ケイドンの街の領主の義弟で、領主代行をしている人らしい。持ち物といっても、実際に管理を任されているのは、ソロン男爵の妹が嫁いだ商会らしい。
住人は平民であっても、建物自体が貴族の持ち物となったら、衛兵も躊躇するのも無理はないか。
ギャジー翁が『解錠』と呟くと、ドアの鍵がカチリと動いた音がした。
「よし。ゾックじいさん、入るぞっ……うっ、なんだ、このニオイ」
家の中に入ろうとした衛兵が後ずさる。
そばにいたギャジー翁も顔を顰めて鼻を隠すくらいだ。よほどのニオイなのだろう。
「酷いニオイだ。『風の精霊たちよ、換気しておくれ』」
『まかせろ~』
ギャジー翁の言葉に、風の精霊たちは嬉しそうに家の中に飛び込んでいくと、すぐに家の中から風が一気に吹きだしてきた。
「おわっ!? ま、魔術師様、何をされたのです!」
「ああ、すみません。あまりにも酷い悪臭でしたので、空気を変えました(精霊たちが)」
「おお、そんなこともできるのですね!」
驚きとともに喜んでいる衛兵たち。
どうもギャジー翁が精霊たちに話しかけている言葉は、衛兵たちには魔法の呪文に聞こえたらしい。
路地の入り口に建っている私たちのところにも酷い悪臭の残り香が届いて、思わずえずきそうになる。モリーナなんて、真っ青な顔になって、今にも吐きそうな感じだ。
「ゾックじいさーん、大丈夫かー」
家の中へと入っていく衛兵たち。階段を上る音が聞こえてくる。
「おい、じいさっ!?」
「くそっ!」
「おい、じいさん、じいさん、大丈夫かっ」
衛兵たちの焦りの声が私の耳にまで届いた。





