第655話 買い出しに行こう <ケイドン>(3)
路地の中をスタスタと歩いて行くギャジー翁。
私の隣では、まだしょげているモリーナ。
「ううう、やっぱり感じないんですけどぉ」
「大丈夫、私も感じない」
全然慰めにはなっていないだろう言葉をかけて、私は離れていくギャジー翁の背中を見つめる。
狭い路地の両脇に建つ二階建ての石造りの家のせいで、薄暗い。
随分と奥のほうまで行ってしまったギャジー翁だったけれど、途中で立ち止まり、上を見上げている。
「何があるんだろう」
「なんでしょうね。ああ、私がちゃんと魔力を感知できたら!」
「元々感知できないの?」
「そんなわけないじゃないですか! ただちょっと、その、今回は、わからないだけですっ」
こそこそ話していると、ギャジー翁が宙に浮いた。
「え、空飛んでる」
「あれくらいなら、私でも出来ます」
「嘘!?」
「嘘じゃありませんよ。今度、お見せしましょうか」
「是非」
村ではモリーナが魔法を使うところを見たことがなかったので(ほとんど引きこもりで魔道具を作ってるから)、少し楽しみだ。
そんな話をしている間に、地上に戻ったギャジー翁が、渋い顔で戻ってくる。
何を見つけたんだろう。
「ギャジー翁、どうだったんですか」
「……あの建物の二階に何かあるようなんですが、その何かから微弱ながら魔力が漏れていまして。ただ分厚いカーテンで中までは見えなくてですね」
「魔力が漏れる……」
「ええ、もし、魔道具から漏れているようであれば、物によっては破裂したりすることもありますから、気になりましてね(精霊が嫌がる何かもあるようですし、破裂程度で済めばいいんですが)」
ギャジー翁が渋い顔をしている。
話の様子だと、漏電しているような感じなのだろうか。そう思うと、不安感が増す。
「それを感知できないモリーナって」
「ええ、まだまだ修行が足りませんね」
「ちょ、師匠、そんな!」
「それは、それとして、あそこは人が住んでいれば注意を促せるんですが」
玄関をノックしたのに返事がないらしい。
両隣の家の玄関も確認したが、そちらも返事がないらしく、戻ってきたものの、このまま放置するのも危険だという。
「こういうのは、街の衛兵にでも言えばいいのかな」
魔力を感知した、なんていうので、納得してもらえるものなんだろうか。エルフだから感知できたような気がするから、そこから説明するのも、面倒ごとが起こりそう。
どうしたものか、と悩んでいる所に、エイデンたちがやってきた。エイデンはニコニコ笑顔だし、ザックスとマークの表情からも、ギルドでは特に問題はなかったのだろう。
「……どうした」
私たちの様子から何か察したらしいエイデンが、真剣な顔で聞いてくる。
「おかえり。ちょっと、ギャジー翁が気になる話をね」
微量な魔力の漏れという、人族には感知しにくい物を、エルフだと気付かせないでどう伝えるか、という話をしたんだけど。
「ふんっ、そんなもん、扉をぶっ飛ばしてしまえば」
「エイデン」
「むぅ」
「ほっほっほ、エイデン様でも、サツキ様の言葉には逆らえませんな」
「ギャジー、うるさいぞ」
大人たちがじゃれている間に、ザックスとマークはモリーナから話を聞いていたようで、二人は知り合いの衛兵に声をかけてくると、走って行ってしまった。
「……エイデンは感じ取れるの?」
「そんな小さい魔力なぞ、俺にはわからん」
「そ、そうですよね!」
エイデンの言葉に勢いづいたモリーナだったけれど。
「馬鹿もの。魔道具職人が、そんなんでどうする!」
ゴチンっといういい音が、モリーナの頭から聞こえた。
……あれは、かなり痛いと思う。





