第654話 買い出しに行こう <ケイドン>(2)
「……いらっしゃい」
奥から出てきたのは、不機嫌そうな中年男性。
――あれ。前に来た時はおじいさんだったような。
中年男性は、そのままカウンターのところの椅子に座り、あいさつ以上の声をかけるでもなく、じーっと私たちを見ている。盗みをするとでも、思っているのだろうか。
あんまり気分はよくはないが、気にせずにテントの袋をチェックする。袋の布は帆布のような丈夫な生地のようだけど、中のテントも同じ生地なんだろうか。それに、テントのポールになる部分が、どんな金属使ってるのか気になる。
しかし、買うつもりはない。
お金に余裕があっても、中身のわからない物を買う気はないのだ。
「あの」
「あ?」
不機嫌そうな中年男性は、眉間に皺をよせて睨んでくる。凄く怖いんだが。
「こ、これの中って見られないんですか」
「なんで」
「え、なんでって、どんな物か確認したいんですけど」
「その赤い紐切ったら、3万ね」
「へ?」
「だから、3万」
「え、いや、まだ買うって言ってないし、中を確認したいだけなんで」
「んなこたぁ、知らねぇよ。とにかく、紐を切ったら3万だ」
――うわぁ……。
この人、商売する気はないんだろうか。
ちょっとだけ、中身を見て品が良ければギャジー翁やモリーナに似たような物を作ってもらえないかな、とは思ったけど、こうも態度が悪いと、他の物を見る気も失せる。前に会ったおじいさんだったら、あんな意地の悪いことは言わなかったと思うんだけど。
テントの確認は諦めて他の魔道具を見てみるけれど、これといって食指が伸びるものはなし。
ふとモリーナはどうしたかと思って店の中を見回すと、すでに見飽きたのか、ドアの近くで待っている感じだ。
「サツキ様、行きましょう」
ギャジー翁に背中を押され、気分が悪いまま、店を出る。モリーナも何も言わないで後をついて出てきた。
「なんか、ごめんね」
「いえいえ、人族の魔道具のレベルがわかっていい勉強になりましたよ」
そう答えたのはモリーナ。
「サツキ様が前に見せて下さった魔道コンロは質はよかったんで、少し期待してたんですけど」
「そうなの?」
「ええ。あの店の中の商品、あんまりまともなのがなかったです」
「えぇぇぇ」
モリーナが肩をすくめて言うくらい、ダメだったらしい。店主が変わって、店のほうも変わってしまったということなんだろう。
エイデンたちが合流するくらい、もう少し時間をかけて見たかったけれど、仕方がない。
「せっかくだから、他の店も見て回りますか」
私は近くに飛んでいた風の精霊に、エイデンたちに移動することを伝えてもらうようにお願いすると、他の店を見ようと街の中を歩いて行く。
洋服屋さんや家具屋や、雑貨屋や金物屋、武器や防具を扱う店。ウィンドウショッピングを楽しみながら歩いていると、ギャジー翁が立ち止まった。
「どうかしました?」
「ふむ……サツキ様、ちょっとあちらの路地のほう、いいですか?」
眉間に皺を寄せたギャジー翁が指さしたのは、少し薄暗い細い道。人が二人、歩けるかどうかの幅だ。
「何か、気になることでも?」
「ええ……ちょっと気になる魔力を感じまして」
「魔力?」
首をかしげる私とモリーナ。
「はぁ……お前は、これくらい感知しないでどうする」
ギャジー翁に叱られるモリーナは、慌てて真剣な顔で、その魔力を感知しようとするんだけれど、上手くいかないらしい。へにょりと眉を下げた。
「とにかく、私だけでも行ってみますので、サツキ様はここでお待ちを」
普通だったら、一緒に行きますよ、と言いたいところだけれど、ギャジー翁の顔つきをみたら、とてもではないが言えない。
ギャジー翁は、モリーナにも残るように言うと、細い道の中へと入っていった。





