第653話 買い出しに行こう <ケイドン>(1)
久しぶりにやってきたケイドンの街。
エイデンのご機嫌をとって、馬型ゴーレムが引く馬車に乗ってやってきた。軽トラでも来ることはできたけど、いつも途中で降りて歩いてくるはめになるので、馬車でやってきてみた。
御者はエイデンとザックス。馬車の中は、私にマーク、ギャジー翁とモリーナだ。途中までホワイトウルフたちが追いかけてきたけれど、いつもの森のあたりでお留守番になった。
今回はビャクヤ一家からは誰も同行していないんだけれど、冒険者に見つからないように注意だけはした。……大丈夫だろうか。少しだけ心配である。
街に入るとき、馬型ゴーレムで見咎められるかと思ったら、スルーできたのにはホッとした。
きっとエイデンが上手いことやったに違いない(遠い目)。
身分証のない私だけ入街料を支払って(ギャジー翁とモリーナは錬金術ギルドに加入しているらしい)、街の中に入った。
「じゃあ、私たちは魔道具屋さんに行くから」
「くっ、すぐ、すぐに追いかけるからな」
「はいはい」
私たちは街の中央の広場で、冒険者ギルド組と魔道具屋組に分かれた。
冒険者ギルドに用事があるのはエイデンたちだけなので、人族の魔道具に興味のあるギャジー翁たちと一緒に行くことにしたのだ。
大きな馬車は、エイデンにしまってもらった。私がタブレットに『収納』してもよかったんだけれど、面倒ごとに巻き込まれても対応できる(?)エイデンに任せたのだ。
ちなみに、ギャジー翁とモリーナは姿を変える魔法で尖った耳だけを変えている。
「あ、あそこが魔道具屋です」
一度しか来ていないけれど、意外に場所を覚えていた。
「こんにちは~」
ドアを開けて中をのぞくと、店には誰もいなかったので、一応、声だけかけて店の中に入った。
商品は前に見た時とあまり変わっているようには見えない。
私の後をギャジー翁とモリーナがついて入ってきたんだけど、すぐにそれぞれ気になる魔道具のほうへと向かっていってしまった。
――ここの商品より、ギャジー翁たちが作る魔道具のほうが質がいいと思うけど。
私は、一番最初に目についた、カウンターのそばの樽のほうへと向かう。
その中には、何かが入っている細長い布の巾着袋のような物が数本、樽からにょっきり飛び出している。高さは私の腰あたりくらいまであって、布自体はかなり丈夫そうで、手にとってみると、意外に重い。
中身はなんだろうと開けてみようとしたんだけれど、何やら赤い紐で開けられないように縛られていた。
値札らしき木の板に目を向ける。
――値段は3万G。
文字は相変わらず読めないが、数字は読めるようになった私。
一般的な家財道具であったらちょっと高い値段だが(グルターレ商会の値段で把握済)、魔道具としてはお手頃価格な気がする。
そもそもこれは何なんだろう、と見ていると、ギャジー翁がやってきた。
「おや、サツキ様はそれが気になりますか?」
「あ、いえ、これは何だろうと思って」
「どれどれ……ああ、これは野営用のテントですな」
「え、テント?」
私の頭の中に浮かんでいるテントは、ソロキャンで使う小型のテントなので、もっとコンパクトで持ち歩きしやすいタイプ。
しかし、今手にしているのは、持ち歩くのは厳しい重さだ。
「たぶん、冒険者パーティ用に、複数人で使えるタイプでしょうか(ふーむ、随分と質の悪い魔石や魔法陣を使ってますね)」
「マジックバッグでもないと持ち運ぶのも大変ですね」
「そうですね(マジックバッグを持っている連中であれば、もっといい物を買うでしょうけどね)」
私とギャジー翁がテントの前で話していると、店の奥から人が出てくる気配がした。





