<キャサリン>
キャサリン・エクスデーロ。12歳。
幼かった顔立ちもすっかり大人びて、背丈も五月よりも少し大きいくらいになった。
学園の夏休みが始まる前日。王都の空は爽やかな青空が広がっている。
今日もキャサリンは屋敷の馬車で学園に向かう。学園の制服である、白い飾り襟に紺色の足首の見えるミモレ丈のワンピース姿のキャサリン。
緩やかなウェーブをした輝くようなプラチナブロンドの髪は、肩より少し長いくらで切り揃えられ、キラキラと輝くエメラルドグリーンの瞳は馬車の窓の外へと向けられている。
学園までは、公爵家の屋敷から馬車で10分ほど。その学園の前の入り口では、毎日のように王太子(3年生)が出迎えて教室まで送り、帰りも教室まで迎えに行って王家の馬車で公爵家まで送り届けるという徹底ぶり。
学園の中での王太子の溺愛ぶりは、社交界でも噂になるほどだ。
向かい側の席に座るのは、護衛も兼ねた、キャサリン付きの侍女が一人。サリーは『見習い』は外れたが、まだ新人メイドなので同行することは叶わなかった。
「今日はずいぶんと、ご機嫌のようですね」
薄っすら笑みを浮かべて窓の外を見ていたキャサリンに、侍女が不思議そうに聞いてくる。
「フフフ、わかる?」
キャサリンは侍女の脇に置かれている小さめな革鞄に目を向ける。その中には、昨日五月から届いたキャサリン宛の手紙が入っているのだ。
五月へ手紙を出して、1か月もせずに返事が返ってきた。
見たことがない上質な紙で書かれていたのにも驚いたけれど、それよりも、拙い文字ではあったものの、楽しみにして待っているとの返事が嬉しかった。
それだけでキャサリンの頭の中は、五月やガズゥたち、ホワイトウルフのことで頭がいっぱいになっている。正直、王家の避暑地へも公爵領にも行かず、直接行きたい、という気持ちのほうが大きい。
「お嬢様、着きました」
侍女の言葉で馬車を降りると、いつものごとく王太子が待ち構えていた。
王族特有の濃い金髪に、深い海を思い起こすような青い瞳。14歳とはいえ、すでにそばについている護衛たちと大差ないくらい成長している姿は、男女問わずに憧れの存在となっている。
「おはようございます」
「おはよう。キャサリン。今朝は何かいいことでもあったのかい?」
「あら、そんなにわかりやすいですか?」
頬に手をあてながら、困ったような表情をするキャサリン。
「フフ、私だけだと思うけどね」
笑顔でキャサリンが持っていた革鞄を受け取り、そのまま従者に渡す。以前は、辺境伯家や宰相の息子たちが侍っていたが、今は新たに別の侯爵家の者がついている。
王太子はキャサリンを連れて彼女の教室(1年Sクラス)へと向かう。そんな二人に様々な視線が向けられるが、楽し気に話す二人には気にした様子もない。
「昨日、サツキ様から、お手紙が届きましたの」
「サツキ……ああ、『神に愛されし者』か」
「ええ。久しぶりに、お会いできそうです」
「それで、機嫌がよかったのか」
王太子は去年の夏の苦い出来事を思い出し、顔には出さないものの、心の中では大きくため息をついている。
そんな話をしているうちに、キャサリンの教室に到着すると、仲の良い女子生徒がキャサリンを出迎えにやってくる。そんな彼女たちにキャサリンを預けると、王太子は「では、また」と声をかけて自分の教室へと向かうのであった。





