第652話 『翻訳』の機能とレターセット
建物のリニューアルは後々考えるとして、先にキャサリンや前公爵へ、返事の手紙を書かなくてはならない。
そもそも、文字をどうするか、ということなのだが。
「フフフ、まさか、こんな機能を追加してあったとは」
先程、タブレットの『翻訳』を使っているところで気付いてしまった。
キャサリンの手紙を繰り返し『翻訳』しているところで、たまたまボタンをダブルクリックした時、言語選択のメニューが現われたのだ。
メニューには日本語の他、大陸共通語の二種類。
大陸共通語っていうのが、キャサリンたちが書いている文字のことだと思われる。(そういえば、ジェアーノ王国から一時避難してたラインハルトくんたちは、この言葉が使えなかった。地域によっては、共通ではないのかもしれない。)
これなら、私の書いた文章も、キャサリンも読めるものになる。念のため、メモ用紙に『こんにちは』と日本語で書いたものを大陸共通語に『翻訳』してみたら、ブロック体のような文字で翻訳されたものが表示された。
キャサリンの書いたような綺麗な文字ではないのが残念ではあるけれど、読める文字になっているようだ。
ただ問題は。
――レターセットがないのよねぇ。
あちらでの連絡の手段は、メールか通話。そもそも手紙を書く機会は、あまりなかった。
それに文房具を買いに行った時に、可愛いレターセットを見かけて、かわいいなぁ、とは思うことはあっても、購入するまでにはいたらなかった。
当然、今の我が家にあるわけもなく、今更買いに行く時間もない。
「う~ん」
我が家で紙といえるものは、寺子屋用にと買ったA4のコピー用紙。タブレットの『収納』に山ほどある。
結局、コピー用紙を半分に切って、手紙を書くことにした。
文章の下書きを何度もしてから、タブレットで大陸共通語に『翻訳』。
キャサリンの手紙には、最近の村の賑やかな様子を伝え、夏休みの来訪を楽しみにしていると書いた。前公爵についても、訪問をお待ちしてます、と短い手紙を書いた。
問題は、こちらの手紙のマナーがよくわからないことだ。
キャサリンと前公爵の文面を参考にしてみたものの、貴族宛の手紙って、これで大丈夫なのだろうか。ビジネスレターの書き方はなんとなく記憶にはあるけれど、少しだけ心配ではある。
筆記体のような流れるような文字は書けないけれど、内容は伝わる……はず。
封筒もコピー用紙を使うことにした。裁縫用に買っておいた、布用の両面テープがあってよかった。本当は封蠟もあればいいんだろうけれど、そんな洒落た物はない。ちゃんと封ができるだけマシだと思う。
「そうだ」
この春咲いたバラで作ったポプリを、少しだけティッシュに包んで、キャサリン宛の手紙に入れて封をした。
なんとか手紙の用意ができた頃には、日付が変わってしまっていた。
また手紙を書く機会がないとは言えない。本気でレターセットを買っておいた方がいいかもしれない、と思いつつ、大あくびをした私は、リビングの明かりを消して、2階への階段をのぼるのであった。





