第646話 『転移用の部屋』
元はログハウスのお風呂のリフォームメニューと『空間拡張』しかなかったのに、メニューが新たに追加された。
それは、リフォームしたい対象の建物をタブレットのカメラで撮影すると、間取りが表示されて、追加する部屋のドアの場所が指定できるらしい。
追加できる部屋のタイプは3種類。床が石か、板か、畳。KPの違いはなく、すべて10万KP。広さは6畳くらいなので、そんなに広くはないけれど、作成後に『空間拡張』も可能なのだそうだ。
この部屋の追加、ぼこっと建物のどこかがでっぱるのかと思ったら、外観は変わらないそうだ。おそらく、ギャジー翁のところにできていた大地くんの部屋のような物が設置されると思われる。
「だったら早く言ってよ!」
『早く言ったら、どうだったのだ』
「この建物建てなくても、あっちのエイデンたちが作ってくれたほうに追加もできたわけでしょう?」
『うむ。しかし、どこに追加するというのだ?』
「え、あ……」
エイデンたちの建物の間取りを思い出す。
建物に入ってすぐに男女に分かれて脱衣所があるのだ。どちらかに追加部屋をつけたら、着替え中の場合、遭遇してしまう可能性が大だ。
「だったら、男女それぞれの脱衣所に『転移用の部屋』を用意すれば」
と言って稲荷さんを見たら、口元をへの字にして真っ青な顔でブンブンと顔を横に振っている。
『それはさすがに、稲荷が気の毒だと思うぞ』
「……あー、はい」
イグノス様が窘めるくらいだ。実は結構、大変だったりするのだろうか。1つ追加するのはよくても、2つは無理ということなのだろうか。
タブレットで『部屋追加』のメニューを選ぶ。次に追加したい建物を選べるようなのだけれど、今は対象となる建物がないので、カメラで家の撮影を促された。
「やっぱり、正面からだよね」
そう呟きながら家の外に出ると、他の皆もぞろぞろとついてきた。
私は建物の正面に立って、タブレットのカメラで撮影をする。皆カメラに興味津々で背後から覗き込んでいる。
「ほぉ~」
撮影し終えると、メニューの中に建物のサムネイルが表示された。それをポチッと押すと、建物の間取り図が現われた。
――うーん、追加するなら靴の着脱がないほうが楽だよねぇ。
村側の『転移用の部屋』をどこに設置するかは、まだ決めかねているけれど、村人たちも利用するだろうから、移動しやすいほうがいいだろう。
ということで、石の床のタイプを選択して、設置場所は土間の右側の壁にした。
「うわっ、いきなりドアができた!」
私がタブレットとにらめっこしている間に、家の中に戻っていたヘンリックさんが声をあげる。
どれどれ、と私も家の中をのぞきこむと、和風の家には似つかわしくないガッシリとした重厚な木製のドアが出来ていた。
ドアノブに手を伸ばし開けてみると、中は真っ暗な石の床の部屋。広さは6畳くらい。これは明かりを付けておかないとダメだろう。人感ライトをギャジー翁に作ってもらえばいいかもしれない。
「稲荷さん! ここに、ここに『どこ〇もドア』置いてください!」
後ろにいる稲荷さんに声をかけると、はぁ、と大きなため息をつきながら部屋の中へと入っていく。
「村のほうは、とりあえず望月さんの家の前でいいですか?」
「それって、ドアが剥き出しで設置されるということですよね!?」
「まぁ、そうですけど、後で建物の中に移動すればいいかと。移動には多少の魔力が必要ですので……エイデンに任せればなんとかなるのでは」
そう言ってエイデンのほうを見る稲荷さん。エイデンもまんざらでもないという顔だ。
「できれば、立ち枯れの拠点あたりが無難だと思うんですけど」
あの辺りなら、村人たちも利用しやすいと思うのだ。
「なるほど。ではそういうことで……フンッ!」
稲荷さんの気合の入った鼻息が聞こえたかと思ったら、部屋の中から白い空気が溢れて強い風が吹いてきた。思わず後退してよろけてしまった私をエイデンが抱きとめる。
「あ、ありがと」
「ああ(少し赤面)」
私は目をこらしながら部屋の中をのぞいてみると、そこには……黒く染められた木で縁取られた大きな襖が現われていた。





