第640話 再び、温泉に向かおう
今日はドワーフのヘンリックさんから、温泉用のベンチや小さい椅子一式ができたとの連絡があったので、さっそく温泉に向かうことにした。
温泉に向かう私たちを運んでくれるのは当然エイデン。ネドリたちのことを話してはいるものの、ビャクヤが同行しているのを知って、あいつらなら大丈夫だろう、と追いかけはしなかった。
確かにビャクヤもそうだけど、精霊たちもびっちり張り付いているだろうと思うと、なんとかなるかな、とも思ったのも事実。
……むしろ手を出した相手(人にしろ魔物にしろ)の方が、気の毒なことになりそうだな、とは思った。
「あー。やっぱり、この馬車はいいですなぁ」
自分たちで作っておいて何ですが、と言いながら笑っているヘンリックさん。
そのヘンリックさんから作ってもらった物を預かると、一緒に馬車に乗って、温泉に向かっている最中だ。エイデンに運んでもらっている時点で『馬車』ではないんだけど。
「前はどうやって行ったんです?」
「あはは。いやぁ、アレもアレでなかなかの経験でしたなぁ」
遠い目になって答えるのはエトムントさん。
今回、馬車の座席に座っているのはヘンリックさんの他に、木工が得意なエトムントさん、それにちょうど村に戻ってきていたハノエさんの妹のネシアさんに、彼氏のアレシュくん。そして、なんとオババも一緒に乗っている。
ヘンリックさんとエトムントさんは新しい家具の具合を確認しに、ネシアさんとアレシュくんは護衛。オババは、前回行った孤児院の年長組のベシーとリンダから温泉の話を聞いて、単純に温泉を楽しみに行くのだ。
「わしゃぁ、アレには二度と乗りたくはない」
ぶるるッと身体を震わせて答えたのはヘンリックさん。エトムントさんもコクコクと頷いている。どうも幌無しの荷馬車に乗せられて運ばれたらしい。
エイデンのことだから、ちゃんと風除けの結界くらいはしてくれてると思うけど、高さがどうもダメだったらしい。今はヘンリックさんとエトムントさんが座っている席からは外が見えないようにカーテンを引いているので大丈夫だとか。
「だらしないねぇ」
呆れた声をあげているのはオババ。ガッツリ窓際に張り付いて外を見ている。その背後にはネシアさんとアレシュくんも身を乗り出して見ている。
そんなやりとりをしている二人を見ながら、私はミニキッチンでお湯を沸かしている。『収納』の中にも飲み物各種が保存してあるけれど、せっかくなのでミニキッチンを使うことにしたのだ。エイデンは運ぶのが上手いようで、車内はまったく揺れを感じない。
マグカップに紅茶を入れて全員に渡す。
「はぁ、旨いねぇ。この紅茶はサツキ様のお国のものだね」
「オババの薬草茶と比べたら、なんでも美味しく感じるわよ」
「ネシア、お前は」
「あ、あははは」
私としては、業務用の大量パックで購入した紅茶なので、そう言われると少しばかり申し訳ない気がする。
そんな風におしゃべりをしながらお茶を飲み切る頃には、ようやく目的地の温泉の建物が見えてきた。





