第638話 稲荷さんに報告しに行く
毎度毎度、買いすぎる自覚はあるものの、あれもこれもと思ってしまい、手が止まらない。
チラリとルームミラーで後部座席を見ると、買いこんだ物でギュウギュウ詰めだ。
ホームセンターで買ってきた物だけではなく、スーパーで買ってきた物も大量にあるので、今回も後ろが見えないくらい詰め込んでいる。
後ろが見えない不安を感じつつ、私はキャンプ場の方へと向かいながら、スーパーで記帳してきた通帳の残高を見て驚いたことを思い出す。
最初に山を買った時は、月に23万円の入金があった。自力で開拓した分で30万円に上がって、その後に山を追加してもらった時には120万円になっていた。今回も同額かと思っていたら、170万円になっていた。(遠い目)
今回上がった理由で思いつくのは、春先に帝国で囲った土地のことだ。放置状態のあの土地だけど、それでも収入に繋がっているようだ。一度、様子を見に行ったほうがいいかもしれない。
おかげで大量に買い物をするのに躊躇がなくなってきている。金銭感覚、麻痺している気がする。
――でも、必要だと思うから買ってるんだし……バックカメラ買おうかな。
元々、中古で買った軽自動車なので、古いカーナビはついていたけど、バックカメラはなし。軽トラのカーナビもそうだ。この機会に、新しいのに買い換えたほうがいいかもしれない。
日もだいぶ傾いてきていたので、急いで山のほうへと軽自動車を走らせた。
キャンプ場に着いた頃には、周辺は暗くなっていた。
さすがに受付している人の姿はなかったので、すんなり稲荷さんを呼び出すことはできた。
「お疲れ様です。あちらで何かありました?」
買い出しのたびに顔だけは出しているのに、なぜか何かあったと察する稲荷さん。
私たちがいつものようにテーブルにつくと、事務所に残っていたバイトらしい男の子が冷たいお茶と稲荷さん特製煎餅を出してくれた。
「えーと。実はですね」
ビャクヤのフェンリル化の話と、ネドリたちが白狼族の里に向かったことを話す。
「……イグノス様、何やってるんだか」
「稲荷さんもご存じなかったですか」
「ええ。でも、まぁ、あちらはイグノス様の世界ですからね。私がどうこう言えた義理でもないので」
その割には、私の方は色々とお世話になっていると思う。
「イグノス様も気まぐれですから。あの一家も、そのうちフェンリルにしてしまいそうですね」
私も、その可能性はないとは言えないと思う。
苦笑いしながら、バリバリとお煎餅を食べる私。相変わらず、美味しい。
「あ、あと、温泉が見つかりまして」
「温泉!」
一応建物は建ててあって、温泉宿は無理でも、湯治場みたいなのはできそうな話をしたら、目をキラキラさせながら『後で見に行きます』と言いだした。
「……温泉なんて、この近くにもありますよね」
「近くって、道の駅についているスーパー銭湯のような物ですよ。もっと北か南に行けば立派な温泉場はありますけど」
一度だけ、大地くんを連れて行ったことはあったそうだ。彼の外見は、こっちでも違和感なく風呂にも入れるから。
しかし、それを奥さんのレィティア様にバレて大目玉をくらったらしい。自分も行きたかった、と。
もし、あちらにも温泉があるんだったら、レィティア様たちを連れて行きたいんだとか。
稲荷さん自身で探さなかったのかと聞いたら、稲荷さんの任されている範囲が決まっていて、その中では見つからなかったそうだ。
「いやぁ……まだ、全然、風情も何もないですよ?(建物の周り、岩だらけだし)」
「私に任せなさい!」
……なぜか、稲荷さんのほうがヤル気になってしまった。





