第635話 白狼族の秘密(2)
私の問いに、ネドリは一瞬顔を強張らせるも、深くため息をついて、微かに笑みを浮かべた。
「……それもビャクヤ様ですね?」
少し声のトーンを落として、確認するネドリ。
「あは、その通り、です」
ビャクヤから聞いた、今回の白狼族の里への同行理由(今代のフェンリルへの挨拶)を伝えると、なるほど、と納得したネドリ。むしろ、護衛のような意味で同行するのだったら、恐れ多いと思っていたらしい。
ネドリは意を決したような真剣な顔で話し出した。
「確かに、白狼族の里には今代のフェンリル様がいらっしゃいます」
今代のフェンリルは、里の長の屋敷の奥から繋がる洞窟で長い眠りについているらしい。
というのも、そのフェンリルがネドリの一族を生み出した祖だというのだ。
「え、それって何年前の話?」
「私が聞いているのは、約400年ほど前だとか」
人化したフェンリルが白狼族の娘と出会い、恋におちた。もともと娘は里の長の長女ということもあり、そのまま長女の血筋が本家のような立場になっていったらしい。
「しかし、番ったはいいものの、獣人とはいえ、フェンリル様ほどの寿命はなく、それでも200歳近くまで生きられたそうです」
「す、すごい」
エルフやドワーフと比較してはいけないけど、獣人も人族よりも長寿なのだそうだ。しかしネドリやガズゥなどフェンリルの血筋の者は、通常の獣人よりも長生きになるらしい。
「番である娘が亡くなると同時に、フェンリル様は人化を解かれ、屋敷の奥の洞窟に籠られてしまいました」
それ以来、長の一族の子供の成人の儀は、村の者たちとは別に、フェンリル様の元へ伺うことが儀式となったのだとか。
その洞窟の入り口、なぜか屋敷のドアの一つになっているらしく、血筋以外の者、血筋でも成人になっていない者には見えないらしい。
なので、実際にフェンリルの姿を見たことがあるのは、ネドリの一族のみ。そのせいもあって、ネドリの一族は里でも敬われる存在なのだとか。フェンリルも神に近い存在になっているらしい。
「ビャクヤ様が、里にいらっしゃるとなると、村も大変なことになりそうです」
「まぁ、大人なビャクヤだし、大丈夫だとは思うけど」
ビャクヤにまとわりつく白狼族の姿が目に浮かぶ。
しかし、今代のフェンリルとはどうやって挨拶するつもりなんだろう、とチラッと思ったけれど、そこはビャクヤに任せるしかない。
「私がいない間は、義兄のボドルとドンドンに任せようと思います。普段ならハノエが村を治めてもらっているのですが、今回はゲッシュもおりますから」
冒険者の姿しかイメージのないボドル。義兄と言っても実年齢はネドリのほうが上だったはず。ちょっと不安だけど、村の守備を担っているドンドンがいるなら、大丈夫な気がする。
「そうですね。まぁ、それにピエランジェロ司祭やギャジー翁のような年長者もいますから、相談相手になって下さるでしょうし」
相談するようなことが起きないのが、一番ではある。
ネドリたちは翌朝早く、村を出ていったらしい。
まだ日も昇る前だったようで、さすがの私も、しっかり寝てたせいで見送りに行けなかった。
でも、できるだけの物はガズゥに持たせられたし、ビャクヤたちがついているなら、きっと大丈夫だと思う。
問題はエイデンなのだけれど、村がドタバタしている間、一度もやってこなかった。
精霊たちには聞かなかったけれど、いったい、ヤツはどこにいるんだろう?





