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山、買いました ~異世界暮らしも悪くない~  作者: 実川えむ
エイデン温泉(仮)三昧の夏

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第634話 白狼族の秘密(1)

 ビャクヤはチラリとネドリとガズゥに優しい目を向けてから、再び私に話し続ける。


『実は、白狼族の里には、今代のフェンリルがおられます。同族になったおかげで、私にも彼の方の存在がわかるようになりました』

「へっ!?」


 私の中では、フェンリルという存在は、はるか昔に存在した生き物だと思っていた。いわゆる、恐竜みたいな。ネドリやガズゥの感じからも、信仰の対象のようなものだと思っていたので、今も生きているとは考えもしなかった。

 実際、ビャクヤ以外に今まで純血種のフェンリルには出会ったことも、話を聞いたこともなかったし。

 だから今回の進化? で、ビャクヤが唯一のフェンリルになったのだと思っていたのだ。

 それが、白狼族の里にいるというのだ。もしかして、ネドリの言っていた『一族の秘密』というのは、これが関わっているのかもしれない。


『当然、彼の方も私の存在を認知されていることでしょう。一度、ご挨拶に伺わねばとは思っておりました。よい機会ですので、行ってまいりますよ』

「う、うん。先輩に挨拶に行くのは大事よね」


 この場で白狼族の里にフェンリルがいることをネドリに聞いていいものか、これも判断が難しいので、ビャクヤが同行する理由については説明するのを止めておいた。

 結局、ネドリたちと同行するのは、ビャクヤの他にハクとスノー、ムクという男の子組だけになった。

 一番幼い、三つ子の一頭であるムクを連れて行って大丈夫なのか心配だったけれど、ハクたちと一緒の時は大人しいらしい。そこは、兄貴分たちに任せるしかなさそうだ。

 従弟のダートたちを宿泊用の建物に案内するのをガズゥとホワイトウルフたち(何気に精霊たちも張り付いている)に任せると、私はネドリとビャクヤたちとともに、村の中へと戻る。

 大柄なビャクヤたちが村の中を歩くと、ちょっと圧巻。しかし村人たちは慣れたもので、ビャクヤたちの姿を見ると、皆が皆、小さく頭を下げている。

 彼らがフェンリルであろうが無かろうが、村人たちに慕われる存在であるのは、私も嬉しい。


「ちょっと確認したいことがあるんだけど……」


 ネドリの家に向かいながら、チラッと目をネドリに向ける。


「はい、何でしょうか」

「歩きながら話す内容じゃないんで、ネドリの家に行っていいかな」

「はい」


 厳しい顔つきのネドリとともに、彼の家に戻ると、玄関先でゲッシュを抱えてハノエさんが待っていた。よっぽど心配だったのか、ネドリの顔を見てホッとした顔をしていた。

 ビャクヤたちには家の前で待っていてもらい、私はネドリの後をついて客間に案内された。


「さて、どういったお話で」

「うん……」


 どう話そうか考えたけれど、上手く聞き出せるほど話し上手ではないので、ストレートに聞いてみた。


「聞きたいことが2つあるの」

「2つ、ですか」

「うん……1つ目は、あの従弟のダートだっけ。彼はフェンリルの血筋ではないのか、ってこと」

「ああ……ビャクヤ様ですか」

「そう」


 ネドリは苦笑いを浮かべながら教えてくれた。

 フェンリルの血筋と言われているのは、白狼族の中でもネドリの一族だけなのだそうだ。母親は白狼族の中でも有力一族ではあってもフェンリルの血筋は一滴も入っていない家柄だそうだ。だから従弟のダートにもフェンリルの血は流れていない。

 それは白狼族の中では常識なので、ダート自身もフェンリルの血筋ではないことは知っているはずとのこと。

 世の中では、白狼族全般にフェンリルの血が流れていると誤解されているそうだ。しかし、それをあえて訂正しない、というのは白狼族の中での決め事らしい。


「え、あ、じゃあ、あの場で聞いても問題なかった?」

「いえ、ダートが仲間に何と言っているかわかりませんから、聞かずにいてくださってよかったですよ」

「よかったわ。あ、それと、これもビャクヤから聞いたんだけど……白狼族の里に今代のフェンリルがいるって本当?」


 そう問いかけて、私はゴクリと喉を鳴らして、ネドリの答えを待った。

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