第633話 ビャクヤの進化
気絶しているダートたちを、ネドリとガズゥが叩き起こす。
「はっ!? フェンリル様っ!?」
「ふぇ、ふぇ、ふぇ」
「で、デカい」
「くぅ……」
驚くダートたちに、ネドリが跪くように強く言うと、慌てて言われた通りに膝をついた。
「ビャクヤ様、申し訳ございません」
『ふん、ネドリが気にすることではない。それにしても、その小さいのはお前の身内か』
ネドリとビャクヤの間では会話は成り立っていないので、私が間に入って通訳する。
それにしても、小さいのって。ガズゥのほうが小さいのに。もしかして、人としての器の話? とか、心の中で毒を吐いてみる。
「はっ、私の母方の従弟にあたります」
『ふむ……だからか。こいつには同じフェンリルの血が流れていないのは』
「へ? そうなの?」
白い毛並みだから、単純に白狼族全てにフェンリルの血が流れているのかと思った。
「サツキ様? ビャクヤ様は何と……」
「あ、えーと」
これは普通に話していい内容なのか。
なんとなく、『フェンリルの血筋』というのは、彼らにとってはかなりのステータスだと思われ、従弟がそれを知ってどうなるのか、予想がつかない。
こっそりネドリに聞こうにも、獣人の聴力がいいのは知っている。内緒話などできない。
「ん、と、とりあえず、それは後で話すわ。それよりも、ビャクヤ、里帰りの件だけど」
『ええ、そうですね』
そう言って彼の背後に集まっている子供たちへと、順繰りに目を向ける。誰を選ぶのかな、と思って待っていると。
『……せっかくです。私が行きましょう』
「え! ビャクヤが行ってくれるの?」
まさかのビャクヤ自身が行ってくれるとは。
「ビャクヤ様が同行していただけるのですか」
「ええ、そう言ってるんだけど……本当にいいの?」
驚くネドリ。私はビャクヤに確認する。
『ええ。実は……つい先日、イグノス様より、お声をかけていただく機会がありました。その際、種族をフェンリルへと変えていただいたのです』
「えぇぇぇぇぇ!」
通常のホワイトウルフとは身体のサイズは全然違うけれど、見た目は今までと何ら変わっていない。確か前に『鑑定』した時には、『ホワイトウルフ(フェンリルとホワイトウルフの混血)』となっていたはず。
慌てて斜め掛けバッグからタブレットを取り出し、ビャクヤへとカメラを向けて『鑑定』すると。
+++++
▷ビャクヤ
種族 / フェンリル
性別 / オス
年齢 / 85才
備考 / ホワイトウルフの長
望月五月の従魔
聖属性・風属性の魔法が使える
人化
聖女の加護
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「確かに種族が『フェンリル』になってる。マジか……」
――聞いてない、聞いてないよ、イグノス様!
その上、ビャクヤにも『聖女の加護』がついているとは思わなかった。それに『人化』って何!?
ビャクヤ曰く、防御力や攻撃力、魔法の強さも上がって、例え魔物の集団が襲撃してきても(スタンピード?)、ビャクヤだけで十分だろうとのこと。それって、エイデン並みってことだろうか。
それと『人化』は、まだ上手く出来ないので、エイデンに相談しようと思っていたそうだ。
ビャクヤの『人化』を気にしつつも、シロタエたちも『鑑定』してみた。残念ながら、彼らはホワイトウルフのまま。これは、ホッとしていいものなのだろうか。
『イグノス様が仰るには、サツキ様の従魔として、今後も励めとのお言葉を頂戴しました』
「そ、そうか~」
自慢げに胸をはるビャクヤに、彼の家族たちも嬉しそうな顔だ。
何を励めと言ってるんだろうか、と思わず空を見上げる。なんとなく、途方に暮れている私をどこかで見て、笑っていそうな気がするのは気のせいだろうか。
「ビャクヤ様がフェンリルに! それはめでたい!」
「凄い、凄いね!」
ビャクヤの種族がフェンリルに変わったことを伝えると、ネドリとガズゥが、喜びの声をあげた。





