第629話 ドッグランにて
ネドリとガズゥは、ネドリの従弟が迎えに来たら出かけることになった。
私がハノエさんの様子を見に行った時には、普段は姉御肌で頼れる姉さんな彼女も、ゲッシュを抱きながら困ったような、そして、どこか不安そうな顔をしているように見えた。
事前に里からの手紙のことは聞いていたようだ。それでも、ゲッシュが生まれてすぐに、そんな話になるとは予想していなかったらしい。
彼女自身、結婚してから一度も里には行っていないそうだし、ネドリの親族とも顔合わせをしていない。親族に認められていない、と思っているだろうから、余計に不安に感じているのかもしれない。
私が心配なのは、ネドリやガズゥの意思を無視して、里に停め置かれることだ。
暴力沙汰になるのはマズイかもしれないが、最悪、その可能性も考えずにはいられない。ネドリがいるから大丈夫かもしれないけれど、色々と悪い考えが頭に浮かんでくるわけで。
「はぁ……」
思わず大きなため息が出る。
ドッグランのウッドデッキで、デッキチェアに座りながら、私にも何かできることはないか、と考えていた。
今日もいい天気で、目の前には今年生まれたばかりのホワイトウルフの子供たちが、元気に走り回っている。
小さい頃の三つ子たち程ではないにしても、地面は見事にボコボコになっているし、芝の部分もボロボロ。でも、これも翌日には元に戻っているから、精霊パワー恐るべし、だ。
「……そうか。精霊たちにお願いすれば」
『なーに?』
『さつきからのおねがいなら、なんでもきくぞ』
『きくきくー』
不用意に呟いた途端、精霊たちが嬉しそうに反応してきた。
――あ、この子たち、際限知らなさそうだわ。
単純に『ガズゥたちを守って』という願いでも、里ごと消しちゃいそうな予感がするのは気のせいだろうか(エイデン? エイデンも精霊たちと大差ない気がする)。
どうお願いするべきか、よくよく考えないと大変なことになりそうなので、後でねぇ、と声をかけて、再び子犬たちに目を向ける。
三つ子はすっかり大きくなっていて、ビャクヤたちと一緒に行動しているようで、最近はここには来ていない。今日も一家揃って、どこかの山に行っているようだ。
ユキとスノーは、まだ子供はいないけれど、相変わらず仲良しだ。
それに影響されたのか、ハクにも春がきたようで、ちょっと小柄なホワイトウルフのメスと行動をともにするようになった。ただ、ハク自身は仲のいい友達だと言っているらしい。私も含め、ビャクヤたちも『素直じゃないなぁ』と思っている。
キャウンッ
ホワイトウルフの子供たちが興奮しすぎたようで、喧嘩が始まってしまった。
ガルルルッ
ギャワンッ
ガウッ
普通の子犬同士の喧嘩であれば可愛いものなんだけれど、目の前のホワイトウルフの子供たちのは、見ているこっちが怖い。
「こらっ! やめなさい!」
さすがに流血沙汰になりそうだったので、私は声をかけながら立ち上がろうとした。
ガルルッ
私のそばで寝ていた、この場でリーダーらしきオスの低い吠え声一発で、子供たちがピタリと止まった。
すぐさま母親たちが、子供たち一匹ずつ首根っこを咥えると、ずるずると端のほうへと引っ張っていった。さすがだ。
子供と言ってもホワイトウルフ。止めようとしたら、私の方が怪我をしていそうだ。
「ありがとうね」
怒ってくれたオスに声をかけると、フスーッという大きな鼻息で返事をして、その場で再び眠り始めた。
そんなホワイトウルフを見て思いついた。
――そうだ。ビャクヤたちにお願いできないかな。
村からも誰か付き添えないか、と言ってはいるけれど、黒狼族というだけで邪険にされるだろうとネドリも言っていた。だったら、ネドリも敬うビャクヤの一族だったら?
ビャクヤたちもガズゥを可愛がってくれている。彼の為なら一緒に行ってくれるんじゃないだろうか。
私はそばに漂っていた風の精霊の一人と目を合わせると、ニッコリと微笑んだのであった。





