第624話 温泉から戻ってきたら
帰りも古龍の姿のエイデンに馬車を抱えてもらった。振動もなく飛び立つエイデン、さすが。その時に、地上で何か動くモノがあったけれど、あれは魔獣か何かだったのだろうか。
一応、エイデンが結界をはっているそうなので、荒らされることはないだろう、と言っていたので大丈夫だとは思う。
温泉で騒いで疲れたのか、子供たちはみんなベッドや椅子で居眠りをしている。私も少し眠かったけど、行きは子供たちに譲ってよく見えなかった外の景色を堪能することにした。
山の中腹あたりに温泉があり、その周辺は荒地になっているが、山裾に行くにつれ木々が生い茂っている。見る限り、温泉のところに行く道らしいものは見当たらない。
――これ、エイデンがいないと来れない場所よね。
眼下に広がる森林の風景が、どんどんと流れていく。この木々の下にあの山に向かう道が隠れているかは、疑問だ。
しかし、せっかくの温泉施設。エイデンがいないと使えないのは勿体ない気がする。
エイデンの飛行二時間という距離は、馬車移動だとどれくらいになるのか。前の獣人の村まで、荒地を空の馬車で三、四日かかると言っていた。エイデンだと約三時間。となると、温泉までの馬車移動は、森の中に道がある前提で最短でも二日くらいかかると思ったほうがよさそうだ(道があるようには見えないけど)。
あの温泉を見つけたのは、そもそもビャクヤたちだったという。彼らなら、村からの最短コースがわかるのではないだろうか。
――それにしても、あの山の場所って、獣王国の土地よね。
火山の中腹だし、近くに村らしきものもなかったけど、勝手しちゃってよかったのだろうか。エイデンだったら何でもアリな気もするけど。
そんな風に温泉のことを色々と考えているうちに、私も居眠りをしてしまったらしい。
気が付いたら村に戻ってきていて、開いたドアからエイデンが顔を覗かせているところだった。
「あ、もう着いたのね」
瞼をこすった後、思い切り背伸びする。エイデンの安定飛行に爆睡していた模様。
子供たちはすでに下りていて、待ち構えていたドワーフたちに楽しそうに話している。
「ほら」
「ん?」
馬車から下りようとして、にこやかなエイデンが手を差し出した。
――おや。これはいわゆるエスコート的な?
私の格好は半袖のポロシャツにジーンズと、いたってレディーらしからぬ格好だけど、せっかくなので素直に手をのせることにした。
たったそれだけのことなのに、エイデンがニパーっとなる。最近、そんなのばかりだけれど、私も嫌な感じはしないので、まぁ、いいか。
「サ、サツキ様っ!」
ちょうど馬車から下りたところで、ネドリが走ってきた。珍しく焦っている様子に、何か悪いことでも起きたのか、と楽しい雰囲気が一気に緊張した空気に変わる。
「どうかしたの?」
「はい、あの、ハノエが……産気づきまして」
「いよいよね!」
「はい、あの、それが」
ゴクリとつばを飲み込むネドリ。
「ガイシャとヘデンのところもなんです」
ちなみにガイシャはテオパパ、ヘデンはマルパパのこと。テオママ、マルママも産気づいたということだ。
「えぇぇぇ!」
出産って、うつるもんなんだろうか。
この前のボドルとコントルのところの出産も同時だった。異世界特有? それとも獣人特有? なのか。
私たちは慌ててネドリの屋敷のほうへと向かうのであった。





