第618話 ブルーベリーの収穫
初夏の日差しがじりじりと肌を焼く今日この頃。
私は果樹園で、今年二度目のブルーベリーの実の採取に勤しんでいる。お手伝いに来ているのは、孤児院の年少組の子供たちとマグノリアさんのところのフェリシアちゃん。
大きな子たちの中でも木登りの得意な子は上のほうを、小さい子たちはドワーフの見習い、ベルントさんとアルバンさんが作ってくれた木製の低めの脚立に乗って、届くところを採っている。
皆、楽しそうにブルーベリーを摘んでいる様子に、私もニコニコしてしまう。
タブレットの『収納』の中にはブルーベリーでいっぱいのジッパー付きストックバッグが山ほど溜まっている。
今年も豊作で、精霊たちが目に見えて張り切ってるので、当然と言えば当然かもしれない。確実に一年では私だけでは食べきれない量なので、今年も一部は村にお裾分けする予定。
今回のお手伝いのお駄賃は、ブルーベリー食べ放題。しかし粒が大きいから、すぐにお腹がいっぱいになってるようだ。
あんな効能のあるブルーベリーを食べていたら、何かしら影響が出るんじゃないか、と思ったのは最初の頃だけ。
特に食べまくっていたガズゥたち。何か体調の変化はないか、と思ってハノエさんたちママ軍団にも聞いてみたところ、気が付いたところでいえば怪我の治りが早くなったらしい。それとマルは冬は風邪になりやすかったのが、この冬は風邪をひくこともなく過ごせたそうだ。
ちなみに、ブルーベリーの効能は相変わらずで、ほぼ万能薬みたいな物になっている。
だったらオババさんに薬の素材として使ってみたら、と提案してみたのだけれど、どうも加工すると効能が消えてしまうらしい。
……私が加工した物(ジャムや果実酒、ドライフルーツ)は変わらないので、まぁ、なんだ。そういうことなんだろう。わかってたけど。(遠い目)
「ああ、いたいた。サツキ様!」
「ん? ニコラ、どうしたの。はい、ブルーベリー、どうぞ」
「んぐ!?」
兎獣人のニコラがログハウスの敷地のほうの道から下りてきたので、摘みたてのブルーベリーを口へと押し込んだ。
「甘い!?」
「美味しいでしょ」
「はい……それに、なんだか身体が軽くなったような……」
「うん、それで、用事は何?」
「あ、はい、ヘンリックさんたちが馬車の改良が出来たからって、サツキ様に見てほしいらしいです」
「早っ」
ついこの前、エイデンにどこかに連れ去られていたようだったけれど、いつの間に戻ってきたんだろう。その上、改良も済んでいるって。さすがだ。
「わかった。じゃあ、皆、その袋がいっぱいになったら終わりね」
「えー!」
「こら、エフィム!」
「いてっ! 叩くなよ、ルルー!」
「まぁ、まぁ。まだ小さいのもあるし、またお願いするから。それと、ルルー」
「はーい」
年少組のリーダーでもあるルルーに、大きいサイズのジッパー付きストックバッグにいっぱいに入っているブルーベリーを渡す。
「これはピエランジェロ司祭様に渡してくれる? 他のお兄さん組にも食べてもらって。あと、フェリシアちゃんも、これ、おうちに持って行ってね」
「はーい!」
収穫を終えた子供たちとともに、一緒に村へと歩いて向かう。当然スーパーカブは『収納』済みだ。
そして。
「言わなくてもついてくるのはいいけど……」
私たちの後ろには馬型のゴーレムが、しっかりとついてきていた。
せっかくなので、馬に乗れるというニコラにお願いして、小さい子供たちと一緒に乗ってもらった。落ちないか心配だったけれど、ニコラがよく気が付いて面倒を見てくれていたようだ。
――そういえば、ニコラも孤児院出身だったっけ。
最近は冒険者の仕事よりも、村の中の仕事を手伝っているようだ。
そんなニコラに、年長組の一人、ケインが恋をしてるらしい、というのがルルーの話。ケインのほうが2つほど年下だそうで、年上のお姉さんに恋する少年の図、であるそうだ。
若いっていいね、と思いながら、村へ向かう道をニヤニヤする私であった。





