第616話 馬型ゴーレムの欠点と改良?
ギャジー翁たちが作った馬車の乗り心地の問題もさることながら、最大の欠点が見つかった。
――私が馬車を走らせることができないこと。
そもそも馬車を動かしたことがないので、馬型のゴーレムであろうが、普通の馬だろうが、関係はない。
これから御者の練習をすればなんとかなるのかもしれない。
しかし、それ以前にこの馬型のゴーレムを操縦するのに、少なからず魔力が必要らしいのだ。
この世界の人間ではない私には、そもそも魔力なんてものはない。
だったら魔法が使えない獣人は? と思ったのだけれど、魔法は使えなくても体内に僅かながらも魔力があるらしい。
獣人のオースさんが動作確認をした時には動いた馬型のゴーレムも、私が手綱を握った時にはうんともすんとも言わなかったのだ。
それに気付いたギャジー翁たちの愕然とした顔。私の方が申し訳なくなるくらいだった。
「ま、まぁ、別にサツキ様が御者をしなくても、他の者に任せればいいのです」
「そ、そうです、そうです」
カクカクと頭を縦にふるヘンリックさんたち。
「でもなぁ……」
せっかくなら、自分でも走らせてみたいなとは思ってしまう。
ペチペチとゴーレムの身体を叩いていると、一瞬上空が暗くなった。
何事かと見上げると、古龍の姿のエイデンがホバリングしているかと思ったら、人の姿になりながら降りてきた。
「五月!」
「やっほー。今日はどうしたの」
地上に降り立ち、嬉しそうに駆け寄ってくるエイデン。すでに見慣れてしまっている私も気軽に挨拶をする。
「おお、ちょっとヘンリックたちに用があってだな……って、こいつはゴーレムか」
馬型のゴーレムの前に立ったエイデンは、興味深そうに見ている。
「はい、エイデン様」
ギャジー翁が目を輝かせながらエイデンの隣に立ち、説明をし始めた。
「ほおほお。なるほどな。確かに五月には無理だろうな……だったら」
そう言ってエイデンが馬型のゴーレムの身体に触れると、黒い靄のような何かがゴーレムの身体を包み込んだ。
「な、何してるの」
「うん? 俺の魔力を注ぎ込んでいるんだ……よし、こんなもんでどうだ」
慌ててエイデンに問いかけると、あっさりと答えるエイデン。私には黒い靄ってだけで瘴気を連想してしまうんだけど、違うモノだったらしい。
「えぇぇぇぇ」
靄の中から現われたのは、黒い馬。ばんえい競馬の馬から、サラブレッドのような体型に変わり、若干先程までよりも大きくなっている気がする。
ブルルルッ
その上、首を振り鼻息まで吐きだし、金色の目が生き生きとしていて、普通の馬にしか見えない。先ほどまでのものが白い彫像のような物だったのに比べて、明らかに生きているように見える。
大きな口を開けて驚きで固まる私。
「エ、エイデン様、これは」
キラキラしてた目がギラギラに変わったギャジー翁。
「見たまんま、俺の魔力で染め上げたゴーレムだ。」
フフンっと、自慢気なエイデンがちょっとムカつく。
「こいつだったら、五月が手綱を持たなくても言葉を理解するし、ゴーレムだから食べ物も睡眠も必要ない」
――なんでもありだな、エイデンくん。
あーだこーだと語り合う楽し気な男どもの背中を、生温い目で見つめる私なのであった。





