第615話 キャンピングカーに乗ってみる
車内の機能に圧倒されながら下車すると、ギャジー翁が待ち構えていた。
「いかがです?」
「いやぁ、なかなか凄いですね」
「フフフ、以前からアースから便利な乗り物の話を聞いていましたのでね。いつか作ってみたいとは思っていたのですよ」
馬型のゴーレムは難しくても、車体自体はエルフの村でも出来たんじゃ? とも思ったのだが、村では村で何やら柵があるらしい。
「魔道具職人のトップでも、自由にというわけにはいかないんですね」
「ええ。でも、こちらに来る際に、後継者を決めてまいりましたから」
「はっ!?」
ニコニコと言うギャジー翁に、驚く私。
「後で設計図を送れば、あちらでも同程度のモノを作ることが出来るでしょう」
モリーナの家には、エルフの村のギャジー翁の工房に送れる転送箱があるので、書類くらいだったら送ることができるらしい。
馬型のゴーレムは難しいかもしれないが、馬車本体自体は村でも作成可能とのこと。量産できるようになったら、貴族などに売ることも視野にいれているらしい。
「え、じゃあ、この馬車は?」
「こちらは、サツキ様へ献上させていただきます」
――けんじょう?
「は?」
「それよりも乗り心地の確認がまだなので、よろしければ乗ってみていただけませんか」
ギャジー翁のキラキラした眼差しで頼まれると、断ることもできず、「さぁさぁさぁ」と促されるままに、再び馬車の中へ。
結局、乗車したのは私の他に、ギャジー翁にドワーフのヘンリックさん、獣人代表でヘンリックさんの所に弟子入りしていたオースさん。
たぶん私サイズの人だったら6人でも余裕だったと思うんだけど、横幅のあるヘンリックさんと、一番体の大きいオースさんが並んで座ったら、もう誰も座れない。
「ヴィッツ、頼む」
『はい』
ギャジー翁の声に反応して、どこからかヴィッツさんの声が聞こえてきた。思わずキョロキョロと周囲を見回すと、ギャジー翁が天井を指さす。
「このライトの脇に『マイク』と『スピーカー』を設置してあるのです」
電気のないこの世界。魔石とか魔法陣とかを使っているんだろうけれど、詳しい仕組みは説明を聞いても私が理解できるかは微妙なので、「へぇ」としか返事ができない。
ガタンッ
ゆっくりと馬車が動き出す。
「おお~、やはり振動が小さいですね」
「こりゃぁ、いい」
「長時間の乗車がだいぶ楽になりそうですね」
「アースに聞いた『スプリング』が効いているんだろう」
そう言っている3人なのだけれど、車に乗り慣れている私には、座席のクッションは利いていてもまだまだ気になる振動。
「……道が整備されていないとキツイかもしれないなぁ」
「はっ!」
「なんと!」
ボソリと言ってしまった言葉に、ギャジー翁とヘンリックさんは愕然とした顔になる。
「あのっ、あ、あくまで私はっていうだけですし、他の皆さんが大丈夫というなら……」
「いえ! ダメです。これはサツキ様が心地よく乗っていただけないのであれば、意味がありませんっ!」
「は、はぁ」
ギャジー翁の熱弁に、思わず身がのけぞる。
「他に気になったところはありませんか」
「そうだぞ。直したいところとかあったら、教えてくれ。オース、メモの準備は」
「はい!」
「……ひえぇぇぇ」
目を爛々とさせる3人に、恐怖を感じた私なのであった。





