第614話 馬車というよりキャンピングカー
馬型のゴーレムの肌触りは、元が土なので、ひんやりしたツルスベ肌。生き物ではないので、撫でても反応がないのはちょっとだけ残念。
ドワーフたちも興味津々で近寄ってきていたので、そこから離れた私は馬車のほうに行ってみた。
シンプルな直方体の馬車の窓は、車体の中央にあるドアのところについているのみ。あまり大きくはないので、車内は暗そうだ。
大柄に感じていた馬型のゴーレムだったけれど、馬車と比べるとそれほどでもない気がするのは、馬車自体も大きいせいだろう。普段村で見るような荷馬車よりも、長い気がする。
車輪が大きめなので、車体が高くて、中のほうまで見えない。ドアを開けようにも私の身長では手が届かない。
――え、これ、どうやって開けろっていうの。
キョロキョロと車体を見ている私に気付いたドワーフの一人、エトムントさんが来て、ドアの下から板を引き出した。
「え?」
「これ、階段になります」
スッと引き出しただけなのに、トトトッと階段に変わっていく。梯子ではない。ちゃんとした階段なのだ。
「凄いっ」
「フフフ、どうぞドアを開けてみてください……ああ、引き戸になりますので気をつけて」
「えっ!?」
まさかの引き戸。前に見た王太子一行の馬車は開閉式だったので、ちょっとびっくり。
私はいそいそと階段をのぼり、「お邪魔しま~す」と言いながら引き戸を引いてみた。
「お? おお?」
自動で明かりがついた。天井に何やら見覚えのある物が。
「え、人感センサー付きライト!?」
ログハウスに付けてあるライトそっくり。しかし、家にあるのは充電式。でも、これは。
「それはギャジー翁とアース殿で作られた物だそうですよ」
エトムントさんが教えてくれた。大地くんが来ている間に、途中まで一緒にやっていた物らしい。
「私には仕組みのほうはわかりませんが、なんでも魔石と魔物の皮に鉱石を使って光を作り出す物になったらしいっす」
「へぇぇぇぇ」
私にもよくわからないけど、なんか凄い物を作ったのだけはわかる。
「それと、車内はどうですか。ちょいと、俺たちも頑張ったんですが」
へへへ、っと自慢気なエトムントさんに言われて、車内をよく見てみる。
向かい合わせの座席の背後には厚手のカーテンがかかっている。それを引いてみて驚いた。
前にキャンピングカーのDIYの動画で見たような、簡易ベッドにミニキッチン、あとはロッカーみたいな物までついている。
「へへへ、一応、奥からも出入り出来るようにしてあるんでさ」
そう言うと階段を降りて後ろのほうに行ったかと思ったら、ミニキッチンのある奥のほうのドアが開いた。
「凄いっ!」
「それとですねぇ」
エトムントさんの勢いは止まらず、色々と教えてくれたことには、私が入ったドアとは反対側の馬車の側面には階段があって、馬車の上に乗れるようになっているらしい。
そして前方のほうには荷物を置くスペースと補助席のような物もついているそうだ。
「まんま、キャンピングカーじゃないですか」
ポロリと零れた私の言葉はエトムントさんには聞こえなかったようで、どんどん話が続いていく。
「大本はお貴族様が使う魔道馬車が基本になってるんですがね」
そう言われて、キャサリンのお父さんたちが来た時には、馬車で寝泊まりしていたのを思い出す。残念ながら、中まで見ることは出来なかったけれど、似たような物だったのだろうか。
「それよりもこっちのほうが凄いのは、キッチンにシャワーがついているんでさ」
「へ!?」
どうも私がロッカーかと思っていた物はシャワーだったらしい。
「アース殿が設計図までは書き上げていたんで、夏にいらっしゃる時までに完成させますと言ってたんですよ。でも、エルフの方々に色々と手伝ってもらえたんで、予想よりも早く出来ちまいました」
「はぁ……」
他にも魔物除けや結界の魔道具がついていたり、重さを軽減する魔法陣が設置されていたりと、色々なモノがついているそうだ。
それが、どれだけの価値のある物なのかは、想像つかないのだが、エトムントさんの興奮具合からも、相当な物なんだろうなぁ、とは思う。
――もしかして、レィティアさんが夏休みに楽に来られるって言ってたのって。
改めて車内を見回した私は、アハハ、と空笑いが出たのであった。





