第612話 司祭補助、レキシーくん
グルターレ商会&レィティアさん親子が帰っていって、ようやく村の日常が戻ったようだ。
やっぱり、レィティアさん親子がいるだけで、多少の緊張感があったんだろう。私が村に顔を出すと、どこかのんびりした空気になっていた。
「司祭様、紙の補充に来ました」
寺子屋にやってきた私は、あちらで買ってきたA4のコピー用紙の入った段ボールを、どんどんと置いていく。
ついでに鉛筆と消しゴム、それにクレヨンものせる。全員ではないけれど、絵を描くのが好きな子もいるのだ。
「ありがとうございます。サツキ様」
ピエランジェロ司祭が深々と頭を下げている後ろに、同じように頭を下げている青年がいる。
背の高さはあまり大きくはなく、私より少し大きいくらい。穏やかな顔つきの優しそうな男の子だ。
彼はレキシーくんと言って、辺境伯領の教会から異動してきた司祭補助だそうだ。
どうもピエランジェロ司祭の遠縁にあたるらしく、王都にある司祭になるための学校を卒業した後、ピエランジェロ司祭のいるケイドンの教会に行く予定だったそうだ。それが司祭がうちの村に左遷? されたことと、ケイドンの街の教会に空きがなかったということもあって、辺境伯領の教会のほうに配属になったんだとか。
しかし、レキシーくんはピエランジェロ司祭の元に行きたいという意思が固く、自力でうちの村への異動を勝ち取ったらしい。
タイミングよくグルターレ商会が辺境伯領に来ていたこともあって、馬車に同乗させてもらってやってきたのだ。
本来なら、外部の人間を簡単には村の中には入れないのだけれど、彼はちょっと違っていて。
『レキシー、あれはなに?』
『きになる、きになる』
『でも、ちかよれないよ』
なんと、光の精霊が3人も付いているのだ。それも小さいながらも人の姿を維持した上に、会話ができる。その上。
「シッ、静かにして」
レキシーくん自身も、彼らと会話ができるらしい。
去年の夏に王太子一行が来た時にも、精霊が付いた人はいるにはいたが、光の粒のようなサイズで、会話なんて成り立っていなかったのを考えると、彼の精霊との相性の良さがうかがえる。ちなみにピエランジェロ司祭にも精霊たちは張り付いているが、会話をするレベルの者はいない。
「そういえば、王都からの手紙って、あちらで何があったんですか?」
レキシーくんがやってきたのは彼の異動以外にも、王都の教会本部からの手紙も託されていたそうだ。
「ああ、身内からですので大したことはありません。お気になさらず」
ニッコリと笑みを浮かべるピエランジェロ司祭。
王都から手紙が届いたのなんて初めてだったので、何かあったのでは、と思ったのだけれど、司祭の様子からも大丈夫そうだ。
荷物を下ろしおえた私は、ギャジー翁の元へと向かった。
キャンピングカーの話をするために!
* * * * *
「ピエランジェロ様、よろしかったのですか?」
心配そうな声で問いかけるレキシー。
彼は司祭に届けられている手紙の内容を知っていた。
「いいのですよ。サツキ様にご心配おかけすることはありません。そもそも、私は本部に戻るつもりも、大司教になるつもりもありません」
きっぱりと言うピエランジェロ司祭。
レキシーは辺境伯領の教会の司祭から、ピエランジェロ司祭をなんとか説得できないか、と頼まれていた。
しかし、村にやってきてみれば、レキシー自身もこの場所の神聖な空気や、精霊の多さ、村人たちとの穏やかな関係に、離れがたくなるのも理解できてしまった。
――エッケル様、私にピエランジェロ様を説得するなど無理です。
辺境伯領にいたときよりも大きく育った精霊たちの姿を見て、困ったように笑みを浮かべるレキシーであった。
活動報告を更新しました。
『山、買いました』コラボキャンペーン
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/695723/blogkey/3252068/





