第605話 元魔王の誕生(2)
上下左右と激しく動いていた卵のヒビが、ピピピッと四方に広がっていく。
――そろそろ来るか。
そう思っているところに、卵の登頂部分の小さな欠片がぺりっと落ちた。そこからちょろりと飛び出てきたのは、何やら白いもの。
「……毛?」
もこっとした白い毛がちょっとはみ出ている。
元魔王というから、てっきりノワールのような爬虫類系のモノが生まれてくると思ったので、毛が見えた時点で『?マーク』が浮かぶ。
ブルブルブルッと卵が揺れた。
『割れるよ!』
マリンの声があがったと同時に、一気に卵の殻が割れた。爆発はしなかったのはよかったんだけれど、そこから現われたのは。
「メェェェェェ」
……もこもこの白い毛を持った黒い顔の羊。
くるりと曲がった金色の角、金色の虹彩に横長の黒い瞳孔。
そして、どう見ても卵のサイズよりデカい!
「え」
『え』
『えぇぇぇぇぇ!?』
――絶対、子羊じゃないよね。
角がある時点で違う。
私だけではなく、マリンや精霊たちも驚きの声をあげる。
「元魔王って……羊だったの?」
「メェェェェェ」
元魔王の羊はもぞもぞ動きながら残った卵から抜け出すと、四つ足で床にしっかりと立った。
そう、しっかりと。
そしてくるりと周囲を見回し、マリンのほうへと狙いを定めてキラリと目を光らせた。
「メェェェェェ!」
一際大きく鳴き声をあげた羊。
――ヤられる!?
私の腰ほどはありそうな体高の羊。マリンなんて体当たりされたら、飛ばされてしまう。思わずマリンを抱き上げた時。
「何をしてるっ!」
いつの間に家に入ったのか、エイデンが私の前に立って、羊の顔面を片手で(!)握って捕まえた。
「ベェェェェェ!?」
顔面を掴んだまま、持ち上げられる羊。四本の足がジタバタと必死に空をかいている。
よっぽど強く握ってるのか、羊から断末魔のような鳴き声があがる。
「エ、エイデン」
「五月、無事か?」
「無事は無事だけど……頭、潰さないで」
「こんな暴れ羊、殺してしまうか」
――うわー。エイデンの目つきが怖すぎる。
『古龍よ、殺すのは勘弁してやってくれ』
いきなり子供のような甲高い声が聞こえた。
「……イグノス神か」
エイデンの言葉に反応して、空中にぼんやりと遮光器土偶が現われた。久々に見たけれど、相変わらずの姿に顔をひくつかせてしまう。
『それをここで殺したら、五月の部屋が血まみれになるぞ』
それは困る。
私の気持ちを察したのか、エイデンは渋々羊から手を放した。
「メェェェェェ……」
羊が大きくため息をついてへたり込んでいる。その周りを精霊たちが飛びながら、お小言を言いまくっている。
『あんた、ばか?』
『なにやってんのよ』
『おろかものめ』
『だれがせわをしてくれたとおもってるのだ!』
「メェェェェェ……」
大きな羊が精霊たちに責め立てられている姿は、なかなかシュールだ。
『ふむ、まさか羊の姿で生まれてくるとは思わなかったが……お前、なんで五月を狙ったのだ』
「メ、メェェ!メェェ!」
『うん? そんなつもりはない、だと?』
「メェェ!」
『ではなぜ』
そこからは必死にメェェ、メェェと鳴きまくっている様子に、羊はイグノス様に説明をしているように見える。
『なるほどな。そういうことだから、古龍よ、許してやれ』
「ちょ、ちょっと、どういうことよ!」
「うーん、こいつ、マリンが母親だと思ったらしくてな」
「え」
見かけ黒猫(実際は聖獣バスティーラ)のマリンを、まさかの母親認定してた。
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