第604話 元魔王の誕生(1)
軽トラに乗って空を飛ぶのとは違い、むきだしでエイデンに抱えられて飛ぶのは緊張感が半端ない。緊張しまくりのおかげで短時間とはいえ、めちゃくちゃ疲れた。
「さぁ、着いたぞ」
エイデンはそう言うと、ゆっくりと下ろしてくれたのだが、私の方はホッとしたせいで脱力中。ここは『ありがとう』と言うべきなんだろうけど、その気力もわかない。
「ほら、急がないと」
「わ、わかってるって」
気合をいれて背を伸ばし、ログハウスの中に入ってみると。
「うわっ、何、これ」
部屋の中いっぱいに、各種精霊たちの様々な色で溢れている。
『サツキだ』
『サツキがかえってきた』
『おかえり』
『あ、五月、戻ってきたのね!』
賑やかな精霊たちに声をかけられている私の元へ、マリンが黒い長い尻尾をフリフリしながら現れた。
「うん、卵にひびが入ったって聞いたんだけど」
『そうなのよ!』
マリンの後をついていくと、大きな白い卵が、かつてノワールが使い、今はマリンが使っている猫ベッドを占領していた。
うちに来た当初はマリンに抱えられるくらいの大きさだったのが、今ではマリンよりも大きくなっているのだ。
――本当に大きくなったわねぇ。
ノワールの卵もダチョウの卵くらいあって大きいと思ったけれど、今目の前にしている『魔王の卵』は、もっと大きい。
なにせ、私が正座した時の視線の高さくらいに卵のてっぺんが見えるのだから、相当なものだ。出てくる子の大きさが予想できる(遠い目)。
その大きな白い卵のてっぺんの方に小さいながらもひびが縦にはしっているのが見えた。
『さっきまで、ブルンブルンと激しく揺れてたんだけど、急に止まったのよ……あ』
マリンが私の背後に視線を向けて固まり、目つきが鋭くなった。
『……なるほどね』
「何?」
私が後ろを振り向くと、エイデンが立っているだけ。
「うん?」
『……エイデン様、とりあえず、家の中から出ましょうか』
「むっ、なんで俺が出なきゃならんのだ」
不機嫌そうなエイデンに、マリンは尻尾をピンと立ち上がらせた上にぶわっと膨らませている。完全に威嚇モードだ。
『エイデン様がいると、生まれるものも生まれないからですっ!』
「なにっ!」
『もう! 前にこの子に威圧したでしょ!』
――そういえば、さっさと生まれてこいと文句を言っていたわね。
チロリとエイデンに目を向ければ、エイデンも思い出したのか、ぐっ、と唸って渋い顔になる。
「とりあえず、マリンもいるし、精霊たちもいるんだし、大丈夫でしょ」
「……何かあったら、すぐに呼べ。外におる」
「はいはい」
私はエイデンの背中を押して家から追い出すと、そそくさと卵のそばへと向かう。
エイデンが出ていってしばらくしてから、卵が少しだけ揺れ出した。
最初は左右に、次は上下に、それを何度か繰り返していくうちに、ピリッと卵のヒビが少し伸びた。
「おおっ、凄い」
ノワールの時は、ガガガガーと中からぶち破ろうとしてた感じだったけど、この子はそれともちょっと違う。なかなかの長丁場になりそうだ。
『ほら、がんばれ~』
『でてこーい』
『もうすこし~』
精霊たちの声援に、卵のほうも揺れが激しくなっていく。
「……あれ、いきなり爆発とかしないわよね」
そう言いたくもなるくらい激しい揺れになってきて、私は少しだけ後退する。
『大丈夫よ。私が守るから』
「信じるわよ。マリン」
『任せて』
そう言いながら、私の前に座っているマリンがジッと卵を見つめ続けている。
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『山、買いました』口絵公開(3)
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