第603話 『魔王の卵』孵化の兆し
食後の飲み物にと、三人分のスティックのコーヒー(マグカップは私の『収納』に入れていた物)をいれて飲んでいると、玄関の対応に行っていたヴィッツさんが戻ってきた。そしてなぜか彼の後ろには、部屋の中の匂いをクンクンとかいでいるエイデンが現われた。
「エイデン!?」
「うまそうな匂いがするけど、なんだ?」
「ああ、エイデン様でしたか。どうぞこちらに」
ギャジー翁が立ち上がって席を譲ると、当然のようにそこに座るエイデン。
――偉そうだわ。
実際、エルフと古龍だったら古龍のほうが強いのだろうし、年齢ももしかしたら上なのかもしれない。
「ギャジー翁に用事? だったら私はここで失礼……」
「いや、俺の用事は五月にだ」
「は?」
「精霊たちが五月がエルフのじいさんのところにいるからというのでな」
エイデンの『じいさん』に若干引っかかるものの、見かけは若くても実際私も『翁』って言ってるので、何も言えない。
ギャジー翁がエイデンを座らせてしまったので、仕方なくエイデンの分のコーヒーもいれてあげると、嬉しそうにマグカップを受け取った。
「で、用事って何? ここで聞いていいことなのかな」
「構わない。ほら、前に温泉の話をしただろう?」
「ああ、そういえば言ってたね……でも、まだ『魔王の卵』が孵ってないから行けないよ?」
「いや、そろそろ孵りそうだと、風の精霊に聞いたんだが」
「えっ!? そうなの!?」
私は近くを飛んでいた風の精霊に問いかける。
『うん、ずこしずつだけど、からにひびがはいってるって』
『やまのやつらがいってる』
「やだ、急いで戻らなきゃ」
ノワールの時は割れ目ができてからあっという間だったのを思い出す。
彼らの言葉に、慌てて立ち上がるとギャジー翁たちに『オーブントースター』の改良のことを頼んで、ひきあげることにした。コーヒーのマグカップは、後日返してもらえばいいので、と私は自分の分だけ『収納』して玄関に向かおうとした。
「おいおい、そんな急がなくても」
「だって、戻っている間に生まれたら」
「マリンだっているんだろう? そう慌てなくても」
「何が生まれてくるかわからないのよ? 心配になるじゃない」
「まったく」
呆れながらも苦笑いをしたエイデンは、いれたての熱いコーヒーを一気に飲み干し(!)、私にカップを差し出した。
「俺が飛んで連れて行けばすぐだろうに」
「え」
「ほら、急ぐのだろう。じいさん、邪魔したな」
「いえいえ。よければ、またいらしてください」
チラリと家の奥、大地くんの部屋のほうに目を向けて、「ふんっ」と鼻で笑うエイデン。
「そうだな。大地がまた来た時にでも寄らせてもらおう」
「ええ、お待ちしております」
ニコニコと笑うギャジー翁。
何か二人には通じるものがあるのだろうか。謎だ。
「お邪魔しました!」
私は急いで家から飛び出した。桜並木のほうはまだ村人たちが盛り上がっているようで、歓声が聞こえてくる。
「よし、五月」
「うえっ!?」
いきなりエイデンに抱き上げられた。いわゆる姫抱っこだ。
「ちょ、ちょっと」
「しっかりつかまってろよ」
「う、うわー!」
羽を出すわけでもなく、人の姿のまま、スー〇ーマンのように空高く飛ぶエイデン。その勢いと高さに、私は思わず声をあげながらギュッと抱きついてしまった。
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『山、買いました』口絵公開(2)
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