第602話 トーストとチューブバター
じーっとのぞき窓から、中のものの焼け具合を見る。
ほんのりとパンの香ばしい匂いが漂ってくる。中には食パンが4枚並んでいる。前にあちらで山ほど買い込んでいた食パンだ。『収納』に入れっぱなしなので、買った時から時間は経っていない。
フライパンで焼くちぎりパンも焼くことはあるにはあるけど、売っている食パンのほうがすぐに食べられるから、ついついまとめ買いしてしまうのだ。
「四角いパンなど、初めて見ましたよ」
私の隣で、同じように『オーブントースター』の中身をのぞくギャジー翁。
そういえば、村で食べているのはそれぞれの家で焼いていることもあってか丸いパンだ。
「そういえば、お二人はまだ食べたことなかったですね」
時々、サンドイッチを作って子供たちと食べることがあったので、普通に出してしまった。村の宴会では、サンドイッチよりもおにぎりを出すことが多い(腹もちがいいから)ので、二人は食パンを知らなかったようだ。
「うん? ちょっと耳のところが焦げてる?」
「おや、火力が強すぎましたか」
「タイマー終わらせますね……もう少し短くてよかったみたいですね」
そう言いながらタイマーのダイヤルを戻すと、チーンッと軽やかな鈴の音が鳴った。
『オーブントースター』の扉を開けると、一気にトーストのいい匂いが広がる。
「あっち、あち」
熱々のトーストを皿の上に載せていく。4枚全部、端のほうの耳が焦げてしまっている。この程度だったらアリだろう。
私はチューブのバターを4枚に搾りだすと、すぐにとろりと溶けていく。
「なんですか、それは」
「え、バターです」
「バ、バター!?」
家では普通に使っていたので、こちらにはないことを忘れてた。
――これも見たことがなかったか。
苦笑いしながらも、私はチューブのキャップをしめて、バターをヴィッツさんから借りたスプーンで伸ばす。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
サクリとした歯ごたえと、じゅわりと溶けだすバター。
――うん、普通に旨い。
だいたい5分くらいで、こんな風にトーストできるなら、だいぶ楽だ。チーズをのせて焼いて、ピザトーストもいけるだろうし、普通に小さいピザくらい焼けるだろう。
そんなことを考えながらもぐもぐとトーストを食べている間、ギャジー翁たちはチューブのバターに関心が集中。
「食べないんですか?」
「いや、食べます、食べます」
慌てて食べるヴィッツさん。
「んっ!?」
「……柔らかい」
2人が目を見開いて固まっている。
トーストだから表面はカリッとしているはずだけど、普段食べている村のパンに比べたら、確かに柔らかく感じるのも当然かもしれない。
「あのぉ」
いつの間にか食べ終わっていたヴィッツさん。私はまだ三分の一くらい残っている。
彼の目は、残った最後の1枚と私の顔をいったりきたり。
「食べたいんでしたら、どうぞ」
「ありがとうございますっ!」
パクッとトーストを食べるヴィッツさん。私にしてみれば、普通にいつも食べる物なんだけれど、ヴィッツさんは凄く嬉しそうな顔になってる。
残っていたトーストの端を食べながら、『オーブントースター』を見る。
うちのキッチンのカウンターに置くには少し大きい。それに、毎回トースト4枚なんて焼かない。
ちまちま食べていてトーストを食べ終えていないギャジー翁に、もう少しサイズダウンできないか話をしていると、玄関のほうで、ドンドンというノックの音が聞こえてきた。
活動報告更新しています。
『山、買いました』口絵公開(1)
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ご覧になってみてください (^^)/





