第597話 獣人の村にて(5) 穏やかな日常
玄関のドアをドンドンと叩いていたのは、孤児院の子供たちのようだ。
「サ、サツキさまは、いますか?」
「はーい?」
ドアを開けたヴィッツさんの後ろから返事をする。顔を出してみると、年少組のエフィムくんとボルトくんだ。
「サツキさま! エルフのおくさまたちが、もんのところにいらしてますっ」
「あ、はーい」
村の寺子屋で勉強をするために教会を出たところで、ちょうど遭遇したらしい。
ギャジー翁の家を出て、走っていく子供たちの後をついていく。
開かれた門の前で、レディウムスさんと共に、レィティアさんとディアナさんが待っていた。
「サツキ様、お手数おかけしてすみません」
深々と頭を下げるレディウムスさん。それに習うように神妙な顔をしたレィティアさんたちも頭を下げた。
村の中に、グルターレ商会の馬車が置かれ、商品が並ぶ。そこを村人たちが覗き込んでいる。ケイドンの街でも仕入れてきた物も並んでいるようで、大地くんが何か探しているっぽい。
「まぁまぁまぁ。なんて可愛らしいんでしょう」
嬉しそうな声をあげているのは、レィティアさん。ボドルさんのところの娘ちゃん(マリアンちゃん)を抱えている。娘ちゃんもご機嫌で、レィティアさんの指をつかんでニコニコだ。
エルフの里では、今は赤ん坊はいないそうで、娘ちゃんみたいな子は貴重なんだとか。
コントルさんのところの息子くん(ボビーくん)も、ママのケイトさんに抱かれながら、レィティアさんをじっと見ている。
「あらあら、二人とも精霊に愛されてるのねぇ」
レィティアさんにも精霊が見えてるようで、マリアンちゃんの周りを飛んでる光の精霊、ボビーくんの水の精霊たちにも笑みを浮かべている。
ちなみに、ディアナさんや大地くんはエルフの里では最年少ではないらしい。もう少し年下の子も数人いるそうだ。
そのディアナさんといえば。
「うわっ、凄いね」
「くっ! 姉ちゃんも強いなっ」
「えへへ。いっくよー!」
孤児院の年少組の男の子たち相手に、木剣で剣術の稽古をしている。
そういうのは男の子たちがやるものというイメージがあった。確かに、ボドルさんとコントルさんの奥さんは元冒険者だけど、うちの村の女の子たちはやらないから、ちょっとビックリだ。
「ガズゥたちは一緒にやらないの?」
「うーん、俺は加減が出来ないから」
年齢的には年少組の子たちとたいして変わらないんだけれど、やっぱり獣人ということもあってパワーもスピードも段違いらしい。
最近のガズゥ、テオ、マルの稽古相手は、いつも獣人の大人たちで、たまにエイデンもみてくれているそうだ。
ただ今日は大人たちはエイデンの山のダンジョンに行ってるそうで、相手になる人がいないらしい。
「よし、だったら俺たちとやるかい?」
私たちと同じように様子を見ていた、護衛のエルフの一人が声をかけてきた。
「え、いいの?」
「ああ」
目を輝かせたガズゥたちは、少し離れた広場で、エルフたちと木剣で稽古をし始めた。
カンカンカンッ
――スピードが全然違う!
徐々に子供たちも、ガズゥたちのところに集まってきて、ついにはディアナさんまで、歓声をあげている。皆、楽しそうだ。
日差しが少し強い。
見上げた青空に、もう、夏? なんて思ってしまったのであった。





