第595話 獣人の村にて(3) 窓の外
紺色のカーテンの開いた大きな窓が二つ。
窓枠の一番下は、私の腰くらいの位置。横幅は両手を広げるくらいだけど……鍵の部分が見当たらない。例えるなら新幹線の窓みたいな感じ。はめ殺し窓、というのだったか。
部屋に入って左手が白銀の世界、右側が海辺の砂浜が広がっている。
最初に近寄った窓は、白銀の世界。天気がいいようで、キラキラと日が反射して目が痛いくらいだ。目を細めながら窓から広がる外の様子を見ていると、 少し離れた雪の塊の奥のほうで動くモノが見えた。
「……え、シロクマ?」
のそりと大きなシロクマが立ち上がり、周囲を警戒しているように見える。少し距離がありそうなのに、あの大きさで見えるということは、シロクマはけっこうな大きさな気がする。
視線があったような気がして、慌ててしゃがんで姿を隠す。
「あれは……スノービッグベアですね。ということは、帝国の北限、でしょうか」
「へ?」
答えてくれたギャジー翁は立ったまま苦笑いしたかと思ったら、重いため息をつく。
「窓の外は帝国ってこと?」
「そういうことになりますかねぇ」
「ていうか、ギャジー翁、隠れなきゃ」
「どうもあちら側からは見えないようで」
「え」
「そのように、稲荷様から教えていただきました」
今のところ、窓の向こう側で人の姿は見かけていないし、動物を見たのもスノービッグベアが初めてだったらしい。
ふと、そういえば冷気が伝わってきていないことに気付く。
外の景色から、てっきりガラスもひんやりするかと思ってそっと触れてみたけど、想像したほどは冷たくはない。
立ち上がって向かい側の、海辺のほうの窓へ移動する。白い砂浜が日差しを反射しているように見える。きっと南のほうの海ではあるんだろう。キレイな緑がかった青い海が広がっている。こちらもガラスに触れてみても、やっぱり暑くないし、熱気も伝わってこない。
「どういうこと? ただの映像?」
「いや、映像ではないです。本当にあちら側の景色だって言ってました」
「なんだって、こんなの……」
「あー、父さんが明り取り用に窓を設置してくれたみたいで」
ありがたいんですけどねぇ、とため息をつく大地くん。
「さすが稲荷さんというべきなのかもしれないけど」
一応、カーテンを閉めると外の明かりは入ってこなくなるらしい。試しに海側のカーテンをひくと、遮光カーテンかと思うくらい日が入ってこない。カーテンの隙間から光も入ってこない。まるで、窓がなくなって壁になってしまったような感じ。部屋の半分が暗くなる。
慌ててカーテンを開けると、再び、同じ海辺の景色が見える窓が現われた。
「……もしかして、両方のカーテン閉めると、部屋の中、真っ暗?」
「その通りです」
「本当に明り取りなんだね……でも、そのために、両極端な場所を表示させるのって」
「……ただの趣味だと思います」
「稲荷様は規格外ですからね」
「そ、そうなんだ」
大地くんとギャジー翁の乾いた笑いが部屋の中に響く。
――あちらだと常識的なのに、こっちだとタガが外れるのかなぁ。
私も、ヘラヘラと笑ってしまった。
活動報告更新しています。
『山、買いました』キャラデザ紹介(5)
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ご覧になってみてください (^^)/





