第589話 大地くんがやってきた
美女たちの訪問から4日後の夕方。
私は大きめの鍋で、夕飯も兼ねた作り置きのカレーを作っていたところだった。
カレールーは市販のものだけど、野菜類はうちの畑で育ったもの。一個一個が大きくて、味が濃い。
お肉はワイルドボア。提供はグルターレ商会に護衛で雇われていたエルフたち。移動中に群れに遭遇して狩ったモノだそう(当然しっかり解体した肉の状態でいただいた)で、お裾分けでいただいたモノだ。
肉質は硬そうだったので、炭酸水を使って煮込んでいる。炭酸で煮ると、肉が柔らかくなるらしいので、実験も兼ねている。ちなみに、前に汲んだ炭酸水はすでに無く、村人に頼んでもう一度汲んできてもらったものだ。
ちょうどそんな時に、稲荷さんの運転する軽トラに乗って大地くんがやってきた。
「こんばんわ」
「あれからうちのが、ご迷惑おかけしてませんか」
軽トラから降りてきた二人は、背丈は若干違うものの、似たような格好(色違いのチェックの長袖シャツにジーパン)に同じ顔をしていて、思わず私は苦笑い。
「ええ。二人ともギャジー翁にこき使われてますよ」
「ああ、そういえば彼も来てましたね」
二人は意外にも文句も言わず、黙々とやっているらしい。
一方でレディウムスさんたちも頑張っている二人に合わせて、先に村の中に入ることもなく、ケイドンの街まで足を伸ばしているそうだ。何か仕入れてくるつもりなんだろう。楽しみだ。
「……なんか、本当にすみません……って、すごいいい匂いなんですけど」
庭先までカレーの匂いが漂っているので、大地くんが鼻をひくつかせている。
「ああ、今日の夕飯です……食べていきます?」
「ありがとうございますっ!」
元気に返事をしたのは大地くん。稲荷さんもニコニコしているあたり、そのつもりだったのだろう。
まぁ神様だし、お供えだと思えばいいか。
「あ、でも、奥さんたちは」
「いいんです。いいんです。母さんたちには少しは、反省してもらわないと……それはそうと、手伝うことはありますか」
「もう、煮込むだけなので、ご飯はこれから炊くので……その間でも、顔を出していらしたら」
「うーん。どうする、父さん」
――うわ、凄いめんどくさそうな顔してる。
思春期……っていう年でもないだろうに、見た目相応な態度にちょっと笑える。
「とりあえず、ここに置いていく荷物だけ下ろさせていただいてから、向こうに行こう。そうじゃないと、もしカレーの匂いをさせて行ったら、それはそれで、望月様にご迷惑をかけるかもしれないだろ」
「あー、そうだね」
そういうと、二人は軽トラの荷台のほうへと向かった。そこには色んな荷物が載っていた。
一番に目についたのは、マウンテンバイク。これは前の時にも持ってきていたヤツだ。そして次に目についたのは……ベッド。これ、普段はソファになるタイプだ。それに布団や枕、上掛けもある。他にも段ボールがいくつも積み重なっている。
まるで引っ越しの荷物みたいって思うのは私だけではないはずだ。
「え。まさか、離れに住むつもり?」
「いえいえ。そんなことしたら、俺の命がいくつあっても足りませんよ」
「(一つ、二つなら、なんとかなるけどな)……ギャジー翁の家に居候予定です」
「あれ、あそこに余ってる部屋ってあったっけ」
「そこは、私がうまいことやるんで」
「……あー、はい。お任せします」
稲荷さん、神様パワー、本領発揮ってことですかね?





