第588話 美女二人、浮かれすぎた結果
稲荷さんがペコペコと頭を下げている姿に、感じるところがあったのか、奥さんと娘さん二人はしゅんとなってしまった。
「ちゃんと、村の者たちの言うことを聞いてくださいね?」
そう注意すると、よほどキャンプ場のことが心配なのか、稲荷さんは慌ただしく帰っていった。
それから私たちは、グルターレ商会の面々を村の外の建物のほうへと案内した。
しばらく使っていなかったとはいえ、ちゃんと掃除が行き届いている。どうも孤児院の子やマグノリアさんたちが手を入れてくれていたらしい。感謝、感謝。
メイドさんたち(彼女たちもエルフ)が荷物を家の中に運び込む様子を見ながら、私がいない間、彼女たちの話相手になっていたネドリに詳しく聞いてみた。
「どうも、久しぶりに旅に出るのと、息子さんに会えること、この両方に浮かれてしまったらしいです」
苦笑いのネドリ。
実はレィティアさん、『姫様』と呼ばれるだけのことはあった。なんと、祖母が今のエルフの王の末の妹だそうで、彼女もいわゆる王族のはしくれなのだとか。
いつもストッパーになるのは稲荷さんか、息子の大地さんだったらしい。
その二人がいないせいで誰も止められない、となったわけだ。
だったらせめて同行しているレディウムスさんがフォローしてもいいだろう、と思ったら、一応、彼は彼で先触れの手配はしたらしいのだ。
しかし、彼女たちのテンションは、予想外の行動力を発揮してしまったようで、風魔法が得意なレィティアさんとディアナさん、移動中はひたすら馬車に追い風を送ってたらしい。
――馬や護衛の人たち、お疲れ様。
言われてみれば、御者や護衛のエルフたちが、だいぶお疲れモードなのに気が付いた。後で差し入れに何か渡してあげたほうがいいかもしれない。
となると、どこかで先触れを追い越していた可能性が出てきた。
「だったら、そう言えばよかったのに」
「いえ、実際には私どもの方が先に着いてしまいましたから」
「……ごめんなさい、レディウムス」
「まったく、貴女は相変わらずですね」
「あっ!」
反省をしているレィティアさんに、追い打ちをかけるようにギャジー翁の呆れた声が聞こえた。
どうもレディウムスさんが村の中に来た時には工房にこもって作業をしていたらしく、休憩をとろうとして、ようやく精霊たちの声で、レィティアさんたちが来ていることに気が付いたらしい。どんだけ集中してたの、ギャジー翁。
「……忘れてたわ。そういえば、貴方も来てたんだったわ」
「ギャジー翁、久しぶり。何か、面白いモノはできた?」
額に手をあてて呟いたレィティアさんに反して、ギャジー翁に会えてディアナさんは少し復活した模様。
「ディアナ様、貴女様も少しはレィティア様を止める努力をしてください」
「……ごめんなさい」
レディウムスさんと違って、ギャジー翁は少しは強く言える立場らしい。
稲荷さんから大地くんが来るまで村の中に入れなくていいと言われていることを伝えると、当然です、とギャジー翁も大きく頷く。
「でしたら、その間、お二人は暇でしょう?」
「え、でも」
「ひ・ま、ですよね?」
「は、はい」
ギャジー翁の言葉に顔を引きつらせる二人に、ギャジー翁はにっこりと笑う。
彼女たちに何をさせるのかと思ったら、腰に下げていた小さなウェストポーチから、パンパンに膨らんでいる大きな麻袋を取り出した。
「アース様と一緒に作る魔道具に必要なので、待っている間、これに魔力を注いでおいてくださいね」
麻袋から出てきたのは透明な石。たぶん、空になっている魔石だろう。
「こ、こんなにっ!?」
「お二人でしたら余裕でしょう?」
「いえ、でも」
「五月様、これが全部終わるまでは、中に入れなくてもいいですからね」
「え」
「では、よろしくお願いしますね」
……ギャジー翁も怒ってた模様。
うん、頑張れ、としか私には言えない。





