第582話 魔道具の草刈り機と、ニコラ
草刈り機を止めて、タオルで額の汗を拭う。今日はログハウスの裏手の山の斜面の草刈りをしている。
ちなみにこれ、電動ではなく、魔道具の草刈り機。ギャジー翁作。
電動の草刈り機を見てすぐに作り始めたというから、どんだけ魔道具作りが好きなのだ、と思う。同じように作ろうとしても、上手くいかないモリーナとは違う。さすが。
見た目は私が買ってきた電動の草刈り機と変わらない。重さはこっちのほうが少し重いけど、持ち歩けないほどではない。動力はなんと、あの瘴気でできた魔石。どうやったら動力に変えることができるのかは、よくわからない。
大地くんが『俺が戻ってくるまでに、何かしらの形にしておくって師匠が言ってました』という言葉通りになって、ただただギャジー翁が凄いってのを痛感する。
この魔道具の草刈り機、村にも3台ほど置いてあって、畑の周りの草刈りなどに活用されているそうだ。
ただ残念なことに、現時点では瘴気の魔石以外ではうまく稼働しないらしいので、一般への販売は難しいらしい。
瘴気の魔石自体が珍しく、流通していないというのが一番の理由でもある。今はかなりの数の瘴気の魔石がある(私の『収納』の中に)からいいけど、なくなったらどうするんだろうか。
ギャジー翁のことだから、そのうち何か考えるに違いない。
そうそう、前に提案した冷蔵庫だが、こちらはすでに小型化(所謂家庭用の冷蔵庫くらい)に成功していて、一応、村人価格にしてくれているらしく、何軒かで使い始めているらしい。(大型のはネドリの大きな家に置いてある)
次にグルターレ商会が来たら何台か売る予定だそうだ。どれだけ吹っ掛けるのかなぁ、と、今からカスティロスさんの引きつりそうな顔を想像して、ニヤニヤしてしまう。
「サツキ様ぁ~」
名前を呼ばれてログハウスの方に目を向けるけれど、ちょうど木に隠れて姿は見えない。声の感じから、ニコラだと思われる。
ガンズたちとともに村にやってきたニコラとランド。ケセラノの街でゴタゴタがあったようで、村に着いてしばらくは落ち込んでいたようだったけれど、孤児院の子たちや村人たちのおかげで、すぐに元気を取り戻したようだ。
「はーい。こっちにいるよー」
私はゆっくり斜面を下りながら敷地のほうへと戻ると、ログハウスの前で日向ぼっこしていたマリンを撫でているニコラの姿が見えた。こうしてみると、マリンがただの大型の猫にしか見えないのだから、不思議だ。
「お待たせ~。どうしたの?」
「あ、あの、グルターレ商会? の方たちがいらしたんですが」
「うん」
ついこの前来たばかりだというのに、随分と早いな、と思っていると。
「なんか村の中に入れないそうなんです。それで、ネドリ様からサツキ様をお呼びするように言われまして」
いつもならガズゥたちに声かけを頼むらしいのだが、今日は孤児院の冒険者チームと一緒に、エイデンの山のダンジョンに行っているらしく、ちょうどその場にいたニコラが頼まれたそうだ。
村に来るグルターレ商会のメンバーは、結界の中に入るのを許された人だけということで固定になっている。
それなのに中に入れないということは、いつものメンバーじゃないってことだ。
「わかった。バイクで向かうから、先に戻ってて」
「あ、はい。わかりました」
ニコラはペコリと頭を下げると、村の方へと走っていく。
私は、小屋からスーパーカブを出すと、エンジンをかける。
「何かあったのかしら」
ちょっとだけ不安に思いながら、村に向かうのであった。
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