第580話 ニコラとランド(3)
ガンズの視線に、ニコラとランドはビクッと肩を揺らす。
「ちょっと、ガンズ、顔が怖い」
「それは、もともとですって。ね?」
「……ネシア」
苦笑いしながらガンズに言うと、ネシアが揶揄いながらガンズの背中を叩く。ガンズもネシアに言われて、右手で頬のあたりを撫でて顔を顰める。自覚があったのだろう。
ため息をついてから、少しだけ視線を和らげた。
「そいつらは?」
「ああ、実はね」
私が彼女たちのことを説明すると、そんなことがあったのか、と驚いた。
彼らはガズゥたちと一緒にいた時には、ちょうど山の裏手の方にいたようで、魔の森の異変には気付かなかったらしい。
「だからこんなに魔物たちが転がってるんですね」
アレシュくんは山積みになっている魔物たちを見て呆れている。
「そうなのよ……って、なんか増えてるし」
私たちが色々話している間に、ホワイトウルフたちが小物の魔物をどんどん積み上げていっていたようだ。その上、ガンズたちの鹿の魔物だ。
これだけの量があったら、村で肉祭りしても残りそう。いや、まだ氷室に大物が残ってた気がする。
ふと、大人で冒険者なガンズたちを見て思った。
――彼らだったら、ニコラとランドを任せられるんじゃない?
ガンズたちは国をまたいで依頼を受けているようだし、ガンズのランクはBランクだと聞いている。それなりに獣王国の冒険者ギルドにも顔がきくはずだ。
「ガンズ、その魔物、私が預かって村まで持っていくから、この子たちを街まで送ってもらえないかな」
「かまいませんが……お前らの街って、ケセラノでいいのか」
「は、はいっ」
ニコラがピンっと背筋を伸ばして立ち上がり、返事をする。慌ててランドも立ち上がり、コクコクと頭を振っている。
「ニコラといったか。所属しているパーティ名は?」
「……『地獄の番犬』です」
「へ?」
彼女の愛らしさに似つかわしくないパーティ名に、思わず声が出た。
パーティ名をつけたのは彼女ではないだろうけれど、随分と強気な名前を付けたものだ、と感心してしまう。世の中には、もっと中二病な名前のパーティもありそうだけど。
「ああ……あいつらか」
どうもガンズはそのパーティを知っているらしい。彼の言い方から、あまりいい印象のないパーティのようだ。そんな中にニコラが入っているというのが不思議だ。
「なんだって、あいつらのパーティなんか」
「え、あんた、苛められてない? 大丈夫?」
ネーレとネシアも感じたようで、心配しだす始末。
「だ、大丈夫です。あの、同じ孤児院の先輩たちなんで……」
「ああ、なるほど。言うこときかないとヤバい系か」
「いえいえ、そんなことは」
「ね、姉ちゃん、大丈夫なの?」
大人たちの様子に、さすがにランドも心配になったようでニコラを不安そうな目で見上げている。
「大丈夫よ、ザイン兄さんが守ってくれてるから」
「ザイン? ああ、『脳筋』のザインか」
ガンズの渋い顔に、あ、これはダメなヤツ、と私でもわかった。
本当に大丈夫なのか心配になりつつも、日が落ちる前には街に戻らないと門が閉じられてしまうそうなので、ホワイトウルフの背に乗せて街に向かわせることにした。
「ガンズ」
「はい」
「申し訳ないんだけど、しばらく彼女たちの様子を見てくれない?」
「サツキ様」
「大丈夫って言っててもさ、ちょっと心配で」
「……わかりました。ついでに、ケセラノで依頼をいくつかこなしてきますよ」
ガンズの声が聞こえたのか、ネシアたちもニカッと笑ってサムズアップしてる。
そしてニコラとランドはホワイトウルフの背にまたがると、ぺこりと頭を下げ、ガンズたちとともに獣王国の街、ケセラノの方に向かって走り去って行った。





