第576話 ゲレベロウス
しばらくすると、森の中からビャクヤと数匹のホワイトウルフたちが大きな熊みたいなのをくわえて現れた。
「うわ、何、そいつ」
ビャクヤが引きずってきたのは赤黒い毛の大きな熊。どさっと目の前に落とされたビャクヤの大きさにひけをとらない。わかっていたことだけど、ビャクヤのパワー、半端ない。
首がグラグラしている感じから、首の骨がいっちゃってるんだろう。
大きさもさることながら、正直、鼻につくニオイに顔をしかめる。獣臭さとも違う独特なニオイだ。
『五月様もいらしていたのですね』
「うん。なんか森の中であったの? すごい数の魔物が来たのって、もしかしてコレが原因?」
『コレだけではありませんが……原因の一つではありますね』
ビャクヤと話している間に、ホワイトウルフたちがもう2頭、熊を引きずってきた。こっちは色合いが赤茶色い感じで、大きさも普通の熊に近い気がする。
私はタブレットを取り出して『鑑定』してみたの、赤黒くてニオイのキツイ大きい熊。
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▷ブラッドゲレベロウス
ゲレベロウス(熊の魔物)の上位種
食用:可
素材:毛皮・爪・牙・睾丸
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小さくて茶色い方を『鑑定』すると、こちらは『ゲレベロウス』とだけ書かれている。こっちのほうが一般的なサイズなんだろう。
『ブラッドゲレベロウスは、食べられるには食べられますが、人族にはニオイがきつく、筋張っていてあまり美味しいものではないでしょうね』
ビャクヤは小さいほうのゲレベロウスを鼻先で転がす。
『むしろ、こっちの小型のほうが食用には向いていますし、かなり美味しいです』
それでも、牛すじみたいに煮込んだら少しは美味しく食べられるんじゃないか、と、ちょっとだけ考えたけど、そこまで労力を使う必要があるのか、微妙ではある。
『これらのゲレベロウスは先に行かせたウノハナたちにと思って持ってきたのです。途中で蹴散らしてきたのが数頭いましたが……ああ、拾ってきたようですね』
何頭かのホワイトウルフたちが、若干毛皮の部分がボロボロになっている少し大柄なゲレベロウスを2頭引きずってきた。これで合計四頭。
マークたちはゲレベロウス自体を知らなかったそうで、興味深々。
一頭だけ分けてもらったけど、これらを解体するのはマークたちには難しいようなので、私が『収納』して後で『分解』することにした。
毛皮や爪などの素材は、モリーナやドワーフたちにでも買い取ってもらうのもありかもしれない。
「そうだ、この子たちって、どうしたの?」
まだ意識を失ったままの二人に目を向けてから、ビャクヤが三つ子に任せたという彼らについて、聞いてみる。
『恐らく、最寄りの獣人の街の者だとは思うのですが、ゲレベロウスたちが集団で向かってくるところで身動きがとれない状態のようだったので』
ひとまず、助けてやったということらしい。
なんでも、どこぞの冒険者が何かやらかしたらしく、ゲレベロウスたちが興奮状態で暴走していたそうだ。それも、ゲレベロウス以外にも熊系の魔物が過剰に反応したらしい。
たまたま、ウッドフェンス周辺には熊のような大型の魔物はいなかったけれど、あんなデカいのが来ていた可能性もあるのかと思いながら、転がっているビャクヤ並みの大きさのヤツを見たら、オークの時とはまた違う恐怖を感じた。





