第574話 ウッドフェンスの結界は万全です
精霊たちが魔の森の方へ飛んで行ってしばらくすると、ドカドカという音がウッドフェンスの向こう側から聞こえてきた。ぶつかる音が聞こえるたびに、思わず肩がすくんでしまう。
「な、なんだ?」
「何かがウッドフェンスに激突してるっぽい」
「でも、すごい数じゃない?」
「だ、大丈夫かな」
マークたちが不安そうな声をあげる。
ちなみに、彼らははっさくのジャムのソーダ割りを手にしている。甘味の中に微かな苦味があるけど、これくらいだったら気にならないようだ。
時折聞こえる『ブモッ』とか『ギャウン』とか『キュー』とか、色んな少し甲高い鳴き声からも、小型の獣か何かだというのは予想がついた。
――オークっぽくはないかな。
私が記憶しているようなオークだったら、あんな可愛らしい鳴き声のわけがない。
激突音が徐々におさまってきたようなので、こっそりと長屋の引き戸を開けて、隙間から外を見たけれど、ウッドフェンスはびくともしていない。結界がしっかり機能していたようで、ホッとする。
『うわ、なにこれ』
『角ウサギに、へー、珍しい。グリーンクオールじゃない?』
聞き覚えのある声に、思わず顔を出す。
ウノハナとシンジュだ。
『おー、フォレストボアの子供もいる~』
『こいつらは、もう少しデカくなったほうが食べ応えがあるんじゃない?』
『親はどうしたのかな』
『探しに来たら、捕まえてやるのに』
食い気満々の声はムクだ。
『ねぇねぇ、それよりも』
『五月~? いるよね~?』
私の匂いに気付いたのか、暢気に声をかけてきたシンジュに、思わず笑ってしまった。
「いるわよ……そっちは大丈夫なの?」
『まだ、あちこち走り回ってる魔物はいるけど、この辺りにはほとんどいないかなー』
確かに、ウッドフェンスにぶつかる音は聞こえなくなっている。
私は長屋から出てきたのだけれど、三つ子たちはまだウッドフェンスの向こう側にいるようだ。
すでに他のホワイトウルフたちよりも身体が大きい三つ子たちは、フォレストウルフ用のドアから入ってこられない。てっきりウッドフェンスを飛び越えてくるかな、と思ったのだけれど、なかなか姿を見せない。
「どうかしたの?」
『うんとねぇ。父さんに頼まれて獣人と人の子を乗せてきちゃったんだ』
「ビャクヤが?」
『シンジュの背中に乗ってるの』
結界をはっているのを知っているからか、安易に飛び越えられないということなのだろう。
「わかったわ。もう少し北のほうに人が通れるドアがあるから、そこに向かってくれる?」
『はーい』
カサカサと草を踏んでいく、いくつかの足音が離れていった。
「サツキ様、何があったんですか」
マークが心配そうな顔で長屋から顔を出してきた。
彼らにはウノハナたちの話し声がわからないから、仕方がない。
「あ、ウノハナたちが来たみたいなんだけど……お客さんも一緒みたいなの」
「お客さん?」
「とりあえず、迎えに行くから……マークとケイン、つきあってくれる?」
「はいっ」
『獣人と人の子』と言っていたし、冒険者でもあるマークたちがいたほうが何かと安心かもしれない。
私たちは足早に拠点の少し北のほうにあるドアへと向かった。





