<精霊たち>
深い緑の魔の森の上空を、緑や青、白、黄色と、様々な色の光の玉が飛んでいく。
緑の光の玉たちは、ビューンっと真っすぐに。
白い光の玉たちは、のんびりと。
青い光の玉たちは、あちらこちらと。
黄色い光の玉たちは、低空飛行でふわふわと。
『あいつだー』
『あいつだねー』
『なんだって、あんなデカいのつれてくるかなぁ』
『それもなんびきもって、ばかなのー?』
『ばかだねー』
イライラした声の緑に光る風の精霊たち。
風にのってくるアカニオイダケのニオイとゲレベロウスの興奮しているニオイに、顔を歪ませる。
『まったく、ニオイもべったりじゃん』
黄色に光る土の精霊たちは呆れている。
『それにしても、ひとぞくのわりに、あしがはやいね』
『よくまぁ、ここまでにげてこれたよね』
感心したように言いながら、白く光る光の精霊たちのいくつかが、興味津々でファーロンのそばへと飛んでいく。
残念ながら、必死に逃げているファーロンには見えていない。
『でも、アレをつれてきちゃったのはいただけないね』
『いただけない』
『いただけなーい』
『くまのニオイで、ちいさいやつらがにげまどってる』
『かなりのかずだね』
『さつきのところはだいじょうぶだろうけど』
『おや、ウノハナたちもこっちにむかってる』
三つ子の気配を察知した精霊たち。彼女たち以外に、小さな子供もいることに気が付いた。
『このままだとぶつかるね』
『みつごだけならいけるかもだけど、アレはちょっとむずかしいかな』
『しかたがない、みずの、ドバーっとやっちゃって』
『あいよー』
『はいなー』
突然大量の水が上空に浮かぶ。
『いっけー』
バシャーンッという激しい音とともにファーロンとゲレベロウスたちの頭に落下して、彼らを勢いよく押し流した。
「うわっ、ごぼっ」
ウゴォ!
グホッ!
周囲は大量の水で水浸しになり、まるで沼地のような状態。ファーロンたちは泥まみれだ。
『すこしは、ニオイもおちたし、くまもおちついたんじゃない?』
『ひとぞく、きをうしなっちゃってる。あのみずでいきてるってすごいきょううんだ』
『くまは……しょうきにもどったね。アレにきづかないで、もどってくよ』
『アレ、どうする?』
『ほっとく?』
どうする、どうすると話し込んでいるところに、ウノハナたちが駆け抜けていく。
『あ、きづかないでいっちゃった』
『じゃあ、わたしたちもいこう』
『コレは?』
『ほうっとけばいいじゃん』
『あとでさつきにきかれたら?』
『うーん』
『みずの、もういっかいぶっかけておこしてあげたら?』
『しかたないなぁ』
先ほどよりも少ない量で勢いを押さえた水は、ファーロンの顔にぶっかける。
「ぐほっ!? はっ! え、何、何っ!」
慌てて飛び起きたファーロンは、あたふたと周りを見回したが、彼に精霊の姿を見ることはできない。
『さぁ、もどろう!』
『もどろう、もどろう』
キャッキャウフフとご機嫌に空を飛んでいく精霊たち。
その一方で、水浸しで呆然と立ち尽くしているファーロン。その後、彼が無事に帰れたかは、わからない。





