第573話 はっさくのジャムと、不安感
せっかくマークたちが運んできてくれた炭酸水。飲まないという選択肢はない。
そのまま飲んでも味はないだろうから、何かないかと『収納』の中を探す。
――そういえば、この前作ったはっさくのジャムがあったはず。
立ち枯れの拠点近くに植えたはっさくの木。去年は籠山盛りに2つくらい収穫できたけれど、今年は大きめな段ボールくらいのサイズの木箱に3つくらいになった。
ほとんどは追熟するために貯蔵庫にしまったのだけれど、その中で5個だけジャムにしたものがある。少し酸味が強いけれど、これはこれで美味しい。炭酸でわったら、いいかもしれない。
はっさくのジャムの大瓶を取り出して、わくわくしていると。
『おやぁ?』
『おやおやぁ?』
「ん? どうしたの?」
風の精霊たちがザワザワしだした。
『まねかれざるきゃく~』
『へんなのもひきつれてるし~』
「え、変なのって」
拠点に残って寝ていたホワイトウルフたちが起きだして、鼻先を空に向け、警戒態勢になっている。
その様子だけで、もしかしてまたオークが来たんじゃないか、と考えて血の気がひく。
今更ながら、ウッドフェンスの向こう側には魔物がたくさんいることを思い出した。
――あ、ガズゥたちはどこ!?
キョロキョロと周囲を見たところで、当然見えるようなところにはいない。
ウッドフェンスの結界があるから、この中に入ってくることはない。ガズゥたちは山のほうに走って行ったはずだけど、あの子たちの行動範囲はかなり広い。知らないうちに、ウッドフェンスの向こう側に行ってしまっている可能性だってある。
心配している私をよそに、残っていたホワイトウルフの中から数匹がどこかに行ってしまった。
『さつきはきにするなー?』
『わたしたちにまかせておけばいいのよー』
『それ、のむんだろー?』
「え、あ、うん」
手にしていたはっさくのジャムの瓶の周りを飛び交う様々な色の精霊たち。
『ちょこっといってくる~』
『かえってきたら、わたしたちにも、すこしちょうだい?』
「え、えぇぇぇぇ」
ちゃんとした説明もなく飛んで行ってしまった彼らに、私はあわあわしてしまう。あの子たちに任せると、とんでもないことになることしか想像できないのだ。
敷地の中をウロウロしだしたホワイトウルフたちを見て、マークたちも不安そうだ。
「ねぇねぇ、精霊さんたち」
『なーに?』
いくつかの光の玉が残っていたので声をかける。この子たちは、この土地にいる精霊たちなのか、まだ人の形にまでなっていない。まだ力が弱いってことなんだろうか。
「ガズゥたちはどこにいるかわかる?」
『ガズゥたち?』
『じゅうじんのこだろ』
「そうそう!」
『ああ、あのこたちなら、やまのむこうがわまでいってるわ』
「……向こう側」
とりあえず、ウッドフェンスは越えていないことだけはわかったので、ホッとする。
「サツキ様?」
「あ、えーと、ちょっと長屋の中に入ろうか」
冒険者として登録しているマークではあっても、獣人の冒険者に比べたら赤ん坊のようなものだろう。私の記憶にあるようなオークが相手では瞬殺されてしまう。
この前は私の姿に気付いて襲ってきた記憶がある。とりあえず身を隠すのが一番だ。
しかし、ウッドフェンスがあっても、華奢な板張りの壁と隙間風の入り込む長屋に、不安感は拭えない。
――後で、ここもログハウスに変えよう。
そう強く思った私だった。
お待たせしました。
一週間お休みをいただきありがとうございます。
まだ本調子ではないので、一日おきくらいのペースで更新できたらと思っています。
ぽこっと突然休んでしまったら、すみません。





