第564話 赤ん坊と精霊、大地くんの魔道具愛
無事に出産が終わると、村中は再び、お祭り騒ぎとなった。
なにせ、獣人の村ではマルが一番下だったくらいで、マルは今7歳なので、その間、赤ん坊が生まれていなかったってことになる。
それはお祭り騒ぎになるのも当然かもしれない。
お酒をちびちび飲みながら、村人たちから『赤ん坊たちに祝福を』と頼まれて、それぞれのお宅にお邪魔した時のことを思い出す。
実際、祝福と言われたって、何をしたらいいのかわからず、ただ抱っこさせてもらって、「元気に育ってね」と声をかけただけだ。しかし、生まれて間もない赤ん坊を抱える機会なんてなかったから、凄く恐々と抱えてしまった。
ちなみに、ボドルのところの元気な泣き声は女の子で、コントルのところは男の子だった。
男の子のほうは、生まれたばかりの時は、ほとんど息がなかったらしいのだが、奇跡的に復活したらしい。
――水の精霊のおじいさん、なんか頑張ってたもんな。
母親のケイトに抱かれた男の子の赤ん坊の頭の上に、水の精霊のおじいさんが真剣な顔で座禅を組むように座っていた。何やら透明な青い光が滲みでているように見えたけれど、あれが何かは私にもよくわからなかった。
その上、他の小さい水の精霊たちまでも、まるで赤ん坊を守るかのように飛んでいた。彼らの姿を見たら、本当に危うかったのかも、と思ってしまった。
一方、元気な泣き声をあげていた女の子のほうでは、光の精霊たちが飛び交っていた。あねさんと呼ばれていた光の精霊は、リリスの肩に乗って、満足げに女の子を見下ろしていた姿には、ちょっと笑ってしまった。
「この村は、こんなにしょっちゅうお祭り騒ぎをするんですか?」
呆れたような声で私に話しかけてきたのは大地くん。
そう言いながらも、彼の手には飲み物(やっぱりお酒なんだろうか)と、豚串のようなもの(たぶんオークの肉)を持っている。
「たまたまだよ。たまたま。そういえば、冷蔵庫の魔道具のほうは、どう?」
ザックスくんたちと遊びに行ったのは、あれ1回だけのようで、やっぱりギャジー翁たちと魔道具をいじっていることのほうが楽しいようだ。
「ああ、冷気の強さを調整するのに苦労してますけど、俺があっちに戻る前にはモノになるんじゃないですかね」
「え、そんなに早く!?」
大地くんは高校の寮に入るので、春休みいっぱい、ここにいるわけではない。
たぶん、あと3日もしないうちに稲荷さんが迎えにくるはずだ。
「師匠ですから。モリーナの相手をしながらだから時間かかってますけど、アレがいなかったら、もっと早くに完成したんじゃないかと」
――弟弟子に『アレ』呼ばわりされるとかって。モリーナ、もっと頑張れ。
「本当は、電子レンジも手をつけたかったんですけど、それは次に来た時に」
「次?」
「ええ。ゴールデンウィークにもお邪魔させていただきたいなって……ダメですか?」
「い、いやぁ。学校とかって大丈夫なのかな、って。ほら、部活とか入ったりしたら、ゴールデンウィークも練習とかなんだとか、ありそうだし」
「部活、ですか」
「そう、中学では入らなかったの?」
「はい。俺、帰宅部でしたから」
「そ、そうかぁ」
「次に来るまでに、色々、考えてくるんで、楽しみにしててください」
妙にヤル気に溢れている大地くん。何が作られるのか、若干不安になりつつも、彼の魔道具への愛を垣間見た瞬間であった。
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