第560話 二日酔いと魚釣り
花見で盛り上がった日の翌日。
村の多くの大人たちが二日酔いでヨレヨレの中、子供たちは元気に村の中を動き回っている。かく言う私もヨレヨレの一人ではあったけれど、起き抜けにスポーツドリンクを飲んで、少し復活した。風邪をひいたときのためにと買っておいた粉末があってよかった。
今私は、大地くんを預かった身でもあるので、村に様子を見に来ている。
そんな村の中を、子供たちの多くがピエランジェロ司祭に勉強を教わるために寺子屋に向かって走っている。
この寺子屋、読み書きと計算だけのようだけれど、そのうち、もっと勉強したいという子も出てくるんじゃなかろうか。
そうなった時に、この世界には孤児が学ぶことができる場というのがあるのか、少し心配になった。
「おはようございます」
「サツキさま、おはよう」
村の石壁の門のほうから、ザックスくんとフェリシアちゃんがやってきた。フェリシアちゃんを寺子屋に送りに来たようだ。
「おはよう。今日もお勉強がんばってね」
「うんっ!」
「あ、フェリシアちゃんっ!」
「カロルちゃんっ!」
すっかり孤児院の子たちとも仲良くなったようで、ザックスくんの手を振り解いて走っていってしまった。
「元気だねぇ」
「す、すみません」
私よりも10cmくらい背の高そうなザックスくんがペコリと頭を下げた。村にきて、栄養のある物を食べるようになったせいか、ずいぶんとがっちりした感じになった。
確かザックスくんは15歳くらいと言ってたはずで、大地くん(の見た目年齢)と同い年くらいだろう。大地くんは、稲荷さんに似てひょろっとした感じなので、だいぶ感じが違う。
こちらでは15歳を成人とするところが多いそうで、昨日はザックスくんもお酒を飲まされていたけれど、彼はケロッとしている。
……若さ、ということなのだろうか。
「気にしないで。ザックスくんは、これから何するの?」
「今日は、マークたちと一緒に川のほうに行こうかと思って」
「川? もしかして南のほうの大きな川のことかな」
「そうです、そうです。4日くらい前に、マークたちと一緒に、ちょっと村の周辺を見て回った時に川のほうまで行ったんですよ」
「え、大丈夫だったの?」
この辺りはホワイトウルフたちがいるので、強い獣も魔物もいないはずではあるものの、危ないのはそれだけではない。
一応、マークくんもザックスくんも冒険者登録してるので、多少の荒事は大丈夫なのかもしれないけれど、どこに何がいるかわからないのだ。
「ええ。ホワイトウルフたちも一緒に来てくれたんで」
「ああ。だったら大丈夫ね」
「奴らからしたら、俺たち、まだまだ、ひよっこみたいで」
苦笑いを浮かべるザックスくん。彼らに守られているというのを理解しているということなんだろう。
「そこで川まで行ったら、大きな魚が跳ねているのを見たんです。それも何匹も」
跳ねる魚、と言われると頭に浮かぶのはトビウオなんんだけれど、あれは海の魚だし。こっちの魚は川でも跳ねるようなのがいるんだろうか。
「その時は道具も何もなかったんで、道具を準備してから釣りに挑戦しようって話になって」
「へぇ。どんな魚だったの?」
ザックスくんと魚談義をしているところに、ヨレヨレになっているマークくんと、彼の背中を押している釣り竿を背負ったケインくんがやってきた。マークくんは、まだ二日酔いが抜けていないようだ。
その後ろから、なんと大地くんもやってきた。
「おはよう、大地くん」
「……おはようございます。五月さんも釣りですか?」
いつの間にか、少年たちと仲良くなっていた模様。魔道具好きで、エルフの里で居心地悪いなんて言ってたから、陰キャのイメージを勝手に持っていたけれど、そうでもないのかもしれない。
「いやいや、君の様子を見にきたんだよ(まさか、お酒飲んでないよね?)」
「……」
ええええ。ニッコリ笑って誤魔化してきた。
いいのか? いいのか? あ、でも、彼はエルフとのハーフだから単純に15歳ってわけじゃないから……いいのか?
私が悩んでいるうちに、男の子たちは、南の畑側の出口のほうへと向かって行ってしまったのだった。





