第551話 稲荷さんと大地くん
ファミレスでの食事に満足した私は、そのままキャンプ場へ向かう。少し日が暮れてきているものの、まだライトを点けるほどでもない。
キャンプ場についてみると、管理小屋の前に大きめなバンが数台止まっている。混んでいるのだろうか、と思いつつ、軽トラから下りて窓から中をのぞいてみると、案の定、人でわさわさいる。しかし、見るからにキャンプしにきたっていう感じではない。
――あれはカメラ? もしかして取材か何かが来てるのかな。
残念ながら人が多くて稲荷さんの姿は確認できない。
大地くんのことを確認したかったけれど、これはちょっと難しそうと思った私は、軽トラに戻ろうとしたところで声をかけられた。
「望月さん?」
振り向いてみると、そこには稲荷さんと制服姿の大地くんがいた。どこかに出かけていたのか、稲荷さんは珍しくスーツ姿だ。
「どうも。お久しぶりです。大地くんもこんにちは」
「こんにちは」
3カ月ぶりくらいだろうか。
高校生かと勘違いしたくらい背の高い大地くん。この前会った時はどこかぶっきらぼうな感じだったのに、今の大地くんはキラキラした目(稲荷さん似の細い目なので、分かりづらいけど)で、私を見ている気がする。気がする、だけだけど。
稲荷さんとは去年の年末には会えなかったので、本当に久しぶりだ。遅すぎる新年の挨拶とともに、スーツ姿のことを聞いてみると、なんと今日は高校の合格発表だったそうで、WEBでも確認できるのに、わざわざ高校まで見に行ってきたそうだ。
「へぇ! どうだったの?」
「ちゃんと合格してましたよ」
自慢げにいう稲荷さん。親バカの一面を垣間見た感じだ。
――まぁ、稲荷さん(神様)の子供なんだから落ちるなんてことはないよな。
大地くんの進学する高校は、かなり遠くにあるそうで寮生活になるのだとか。完全にこちらでの生活になるのか、と思うと、少しだけ大丈夫なのか、と心配になるが、神様の子供を心配するのもおこがましいのかもしれない。
「そうだ。なんかお客さんがいっぱい来てますけど」
管理小屋の中のことを聞いてみる。
「ああ、キャンプの番組か何からしくて、ロケにいらしてるんですよ」
「へぇ!」
――ここのキャンプ場、そんなに有名なの?
ちょっと意外に思っていると、
「前にバイトしてた子が、テレビの制作会社に就職したらしくて」
「なるほど」
テレビで放送なんてしたら、これからキャンプにもいい時期になるから、キャンプ場を利用するお客さんが増えそうだ。
立ち話もなんなので、ということで管理小屋の裏手から事務所のほうに案内された。
事務所のカウンターの中のほうに入るのは始めてだ。雑然としている事務所の中、隅の方にあったテーブルに案内された。
「あ、オーナー! 戻られたんだったら、声かけてくださいよ!」
慌てた男性の声は、たぶんバイトくんなのだろう。
「えー、普通に対応すればいいよね」
「ダメですっ! 早く出てくださいっ!」
「お客さん来てるんだけどぉ」
「あ、すみません、すぐに終わりますんで」
バイトくんがペコリと頭を下げると、稲荷さんは引きずられていった。
「……お茶、いれます」
「は、はい」
大地くんもそそくさと、その場を離れてしまった。





