第544話 ギャジー翁
ギャジー『翁』というから、私の頭の中では、白いひげを長く伸ばしているようなイメージがあった。
以前来たレディウムスさん(カスティロスさんのおじいさん)も確かにおじいさんというよりも、人でいう中年の働き盛りくらいに見えた。カスティロスさんは20代後半くらい?
しかし、問題のギャジー翁はカスティロスさんと同じか、もっと若く見える。
「あの、失礼ですが年齢をお伺いしても?」
「私ですか? 今年で601歳になります」
「ろ、ろっぴゃく!? え、カスティロスさんところのおじいさんって、確か……」
「ああ、レディウムスですか。彼は700を超えてますかねぇ」
「カスティロスさんは……」
「ああ、あれはまだ150くらいだったかな」
……数字の感覚がおかしく感じる。
なんでこんなに若々しいんだろう。やはり、エルフという種族だから? いや、でも、ギャジー翁のほうがカスティロスさんより若く見えるっていうのは。
「フフフ、私の年齢に驚かれるのは久しぶりです」
「へ?」
「いつもエルフの里にいるので。外からもあまり人がくることはありませんし」
なんでも魔力量によって容姿の若々しさが違ってくるのだとか。エルフだけ? かと思ったら、人族にもその傾向があるそうだ。
今回のギャジー翁の訪問は、うちの村にある私が持ち込んでいる道具を実際に見るためにやってきたのだとか。できればそれを魔道具にできないか、と考えているそうだ。
――だったら、私も色々作って欲しいものがある!
本当ならモリーナにお願いできるならお願いしたかったけれど……モリーナはなぁ……。
「ギャジー様!」
モリーナが走ってやってきた。その後をゆっくりとアビーがついてきている。
「モリーナか。それに、アビー、世話をかけてるな」
ギャジー翁に声をかけられて、アビーはぺこりと頭を下げた。
「あの、実は新しい道具を作ったので見てほしいんです!」
「モリーナ、まずは挨拶でしょう。ご無沙汰しております、ギャジー様」
「フフフ、苦労してるようだね、アビー」
「も、申し訳ございません、ギャジー様。えと、ご無沙汰しておりますっ」
モリーナは慌てて頭を下げたけれど、すぐにもギャジー翁を連れていきたげなので、私はとりあえず、その場を離れようとした。
「ああ、サツキ様」
「は、はい」
「近々、アース様がいらっしゃいます」
「アース?」
――誰の事だろう?
「レィティア様のご子息です」
「レィティア様……あ、ああ、稲荷さんのところの大地くんですか」
確か大地くんは中学生として学校に通っていたはず。
「そう、そのダイチくんです」
「えーと、なんの為に?」
「なんでもガッコウのハルヤスミだそうで、こちらに遊びに来たいのだとか」
――稲荷さんっ、聞いてないよっ!
時期としてはまだ春休みには少し早いはず。もしかしたら、今度の買い出しの時にでも寄った時に話があるのかもしれない。
とりあえず、彼が泊まれるように準備をしないといけない。
――離れの初めてのお客様になるかも。
そう思ったら、ちょっとだけワクワクしてきた。





