第543話 グルターレ商会とともにやってきたのは
今年初めて、グルターレ商会がやってきた。
いつもと変わらない大量の荷物の他に、びっくりすることが2つ。
まず1つ目は、6頭の牛と帝国の北にあるケセケト村の村人たちが一緒にやってきたのだ。
ケセケト村とは、去年の秋に商会が来た時に買ったチーズを作っていた村のことだ。今は帝国から隣の国に移住したと言ってた記憶がある。
そして牛は彼らが飼っているソゴワという牛。うちの村で飼っている牛よりも一回り小さい茶色い牛だ。ジャージー牛に似ているかもしれない。
「あんたがぁ、村長か?」
ケセケト村の村人の代表と思われる、30代くらいの人族の男性が声をかけてきた。
見慣れた獣人の男性たちとは違って、小柄で私よりも少し大きいかな、というくらい。名前をヨシヒトさんという。名前の響きは日本人っぽいけど肌は白く、顔立ちは目鼻クッキリ系。
声に多少の訛りがあって、のんびりした空気のある人だ。
「いや、村長はあっち」
商会のカスティロスさんと話しているネドリのほうを指さす。
「うん? でも、あいつがお前さんに話をしろと言ってたんだが」
「え。あ、うーん」
牛関係だったら、やっぱり私になるんだろうか。
ヨシヒトさんはケセケト村の牛飼いなのだそうだ。彼の話を聞くところによると、やっぱり秋に渡したうちの牛乳を飲んでくれたようだ。その味が忘れられなくて、ノースメナス王国に移住したにもかかわらず、わざわざうちの村までやってきたらしい。
ケセケト村は男は牛飼い、女はチーズやバター作りをするという仕事の分担らしく、一緒にきたのはヨシヒトさんの家族なのだそうだ。
この時期にうちの村までやってくるということは、彼らの住んでいる場所なら、まだ雪も残っていただろう。そこまでして来てくれたと思うと、ちょっと感動する。
「あ、ゲハさん」
ちょうど牧場のほうからやってきていたゲハさんに声をかける。
最初はソゴワのほうに行きかけたゲハさんだったけれど、私の声に慌ててやってきてくれた。
「ゲハさん、こちら、ヨシヒトさん。ケセケト村で牛飼いをしていたんだって」
ヨシヒトさんとゲハさんが並んでいる姿は大人と子供ほどの身長さがある。
秋に渡した牛乳は、彼が世話をしている牛の乳だと教えたら、ヨシヒトさんは目をキラキラさせてゲハさんの両手を握ってブンブン振り回した。
そこからはゲハさんとヨシヒトさん一家は牛の話で盛り上がってしまい、私はするりと話の輪から抜け出す。
――これは、牧場を広げないとダメだわ。
後でマカレナやブルノにも話をしないといけないな、と思っていると。
「……サツキ様、でしょうか」
「あ、はい、そうですが……!?」
また誰かが声をかけてきたので振り向くと、そこには、長い銀髪の美青年が立っていた。
年のころは20代半ばくらいだろうか。背の高さはエイデンくらいあるけれど、身体はもっと細身、耳の形からも彼がエルフだろうというのは私でも想像できる。
「えーと、どちら様でしょう?」
「ご挨拶が遅くなりました。私の弟子のモリーナが大変お世話になっております」
……うん?
「毎回、ご迷惑ばかりおかけしているようで、申し訳なく……」
「え、は? もしかして、貴方は」
「魔道具職人のギャジーと申します」
ニッコリと微笑む美男子。
――う、うっそだー! どこが『翁』なのよっ!
内心で叫んだものの、大声で叫ばなかったことを褒めてほしい。
ケセケト村については『第468話 美味しいチーズと、帝国情報』を参照。
前話で麦踏の歌についてコメントをいただいておりますが、あくまでフィクションですので、実際にあるかどうかはわかりません(^^;)
ただ、某アイドルの無人島での麦を育てるシーンで、歌っていたのが頭をよぎった、ということだけ付け加えさせていただきます<(_ _)>





