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山、買いました ~異世界暮らしも悪くない~  作者: 実川えむ
新しい命にあふれる春

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第542話 麦踏み

 女の人たちの歌声は、村の南側の畑のほうから聞こえてくる。南側の畑は石壁で囲まれているので、外からは覗くことはできない。

 畑に何を植えていたかは覚えていないけど、まだ、収穫するような時期ではないはず。

 村の中を抜けて畑を見に行ってみると、村の女性たち、獣人だけではなく、ドワーフの奥さんたちや、人族のマグノリアさん(ケイドンの街から連れてきた人)も一緒に、せっかく生えてきた苗をふみふみしていた。

 ちなみに、すでにマグノリアさん家族には、獣人の村だと理解した上で、村の中に移ってもらっている。最初の頃こそ、ビクビクしていたものの、賑やかなママ軍団にかまわれるようになって、今では完全に妹分になっている。


「え? 何やってるの?」


 あっけにとられていると、畑のそばに立って様子を見ていた一人のおばあさんが声をかけてきた。


「サツキ様じゃないですか」

「こ、こんにちは……これは何やってるんですか」

「おやぁ、麦踏みをご存知ないかい?」


 ご存知なかったので、おばあさんに教えてもらった。

 なんでも、、麦踏みをすることで根が強くなって、立派な麦になるのだとか。


「村にいた時は、小さな畑だったから私と爺さんだけでなんとかなったけど、ここは広いからねぇ」


 説明してくれたおばあさん(コッキーさんというらしい)が、村の麦のまとめ役らしい。なんと、若手冒険者のメンレーちゃんのおばあさんだった。


「皆さんが歌ってるのは?」

「麦踏みの歌だねぇ」


 コッキーさんは、よその村からお嫁にきたそうで、その村は小麦の産地だったそう。幼いころから畑の手伝いをしていたので、麦踏の歌を覚えていたそうだ。

 お嫁に来た当初の獣人の村は、森の中にある小さな村で、採集中心で、なかなか生活が厳しかったらしい。そこから小さいながらも畑を作っていたのだけれど、魔物たちのせいで今に至る。


「ここはぁ、ビャクヤ様たちや、エイデン様、それに何よりサツキ様がいらっしゃる」


 おばあさんの優しい目が、畑で麦踏をしている女性たちに向いている。

 

 ――ビャクヤやエイデンはそうだろうけど、私は、精霊たちのおかげが一番だと思うなぁ。


 実際、畑の上空には土や風、光に水と、様々な精霊たちが集まりはじめ、女性たちの歌に合わせてふよふよ動いている。

 

「サツキ様も、踏んでみますか?」

「え、いいの?」

「どうぞ、どうぞ」


 いそいそと畑の端の方に行って、見よう見まねで麦を踏む。さすがに麦踏の歌は歌えないけど、曲に合わせてふみふみする。

 別に悪いことをしているわけでもないのだけれど、やっぱり、苗を踏むという行為になんとなく罪悪感が湧く。


「これ、初夏くらいには収穫なんですよね?」

「ええ! たくさん収穫できればいいんですけどね」


 隣の畝をふみふみしていたおばさんに声をかけると、嬉しそうな返事が返ってきた。

 

 ――精霊たちのご機嫌次第では、もっと早くになるかもしれないけど。


 豊作になる分にはいいかと、畑の端を目指し、麦をふみふみする。


 ――麦もいいけど、私はやっぱり米かな。


 そろそろ水田の準備を始めないと、と思った私なのであった。


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