第537話 聖女の加護
部屋中が白い光でいっぱいになったのは一瞬のこと。
「な、なにごと!?」
慌てて手元のブレスレットに目を向けると、無色透明だった水晶のような魔石が、乳白色に変わっている。
「さすが、サツキ様だ!」
「すごーい!」
「すごー!」
「え、いや、あー」
子供たちは大盛り上がりだけれど、私のほうは不安でしかない。
とりあえず、石の色が変わってしまったこともあり、どうなったのか念のためタブレットで『鑑定』してみる。
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▷守り石のブレスレッド(聖女の加護付き)
ホワイトウルフの毛糸で加護付きの守り石を編みこんだブレスレット。
製作者のガズゥの想いがこもっている。
備考 :聖女の加護(無病息災)
期間 :ブレスレットの糸が切れるまで
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……おうふ。
しっかりくっきり『聖女の加護』って書いてある。(遠い目)
念のため、まだ何もしていないテオのブレスレットを『鑑定』すると。
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▷守り石のブレスレッド
ホワイトウルフの毛糸で守り石を編みこんだブレスレット。
製作者のテオの想いがこもっている。
備考 :病気や怪我になりにくい(守り石)
期間 :3年間
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私が願った『無病息災』と、守り石そのものが持っている力の『病気や怪我になりにくい』とは、どちらがいいのだろう。
期間はテオのは3年間となっているけれど、ガズゥのは『糸が切れるまで』。
ちなみにワイトウルフの毛糸ってかなり丈夫なんだけれど、ずっと切れなければ3年以上効果があるということになるのではないか?
『さすが、さつきー』
『すごいねー』
『もとのいしもなかなかだけど、せいじょのかごは、はんぱなーい』
精霊たちがわきゃわきゃと飛び回っている様子からも、『聖女の加護』のほうがいいのだろう。
「はぁ……じゃあ、テオとマルのもやってみようか」
「うんっ!」
「……おねがい」
私はテオとマル、両方のブレスレットにも『聖女の加護』を付けてあげた。それぞれに、ピカ―ッと光ったのは言うまでもない。
透明だった魔石が乳白色に変わって、三人は、それはそれは嬉しそうだ。
外の雨はまだしとしと降っている。
そんな中、ブレスレットを剥き出しの状態で持ち帰らせるに忍びず、小さなストックバックに入れて渡してあげた。
3人とも大事そうに服のポケットにしまいこんで、その上にレインコートを羽織った。
「ガズゥはこれ着ていきなさい」
100均で自分用に予備として買ってあったレインコートをガズゥに着させた。子供用のように色付きではないので、可愛くはないが、濡れるよりはマシだろう。
「ありがとうございます」
「気を付けて帰るのよ」
「はーい!」
3人が嬉しそうな顔で村へと帰っていく姿に、ホッとする。
――それにしても、あのブレスレットのサイズじゃ、赤ん坊には大きすぎるんじゃない?
首を傾げる私なのであった。
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「ただいまー!」
ガズゥの元気な声が家の中に響く。
「おかえり」
少し大きくなったお腹を気にしながら、玄関先で出迎えるハノエ。
「あら、その『れいんこーと』は」
「サツキ様からもらった!」
前に頂いたレインコートが小さくなってしまっていても使い続けていたガズゥ。
それなのに、五月から新しいのを渡されると、それを素直に着てしまうことに、ハノエはくすりと笑ってしまう。
丁寧に折りたたもうとして上手く出来ないガズゥ。
「ほら、母さんがたたんどくから、足を拭いて。暖炉のところにお行き」
ハノエはレインコートを受け取りながら、ガズゥの背中を優しく押したのだが。
「あ、その前に!」
「うん? 何?」
「これ、母さんに」
照れくさそうにガズゥが差し出したのは、ブレスレットが入ったストックバック。乳白色の石が編みこまれている。
「守り石のブレスレット」
「あら」
「オババに編み方、教えてもらったんだ」
「……ありがとう」
「うん!」
ハノエが受け取ると、嬉しそうに返事をして、奥のほうへと走っていく。
「赤ん坊のための守り石なのに……あら? 石の色が違うわね」
それでもガズゥの手作りという物であれば、母親としては嬉しくもなる。
レインコートをたたんで、ガズゥのブレスレットをいそいそと付ける。
「フフフ」
ハノエは笑みを浮かべながら、ガズゥのいる暖炉のある部屋へと向かうのであった。





