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山、買いました ~異世界暮らしも悪くない~  作者: 実川えむ
新しい命にあふれる春

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第535話 よだれかけと、マリンと『魔王の卵』

 桜の苗木を植えた次の日から、数日、しとしとと雨が降っている。

 少し暖かくなってきたかと思ったのだけれど、また寒さが戻った感じだろうか。雪になるほどではないけれど、外に出るのは嫌だなぁ、と思うくらいに寒い。

 孤児院の子供たちや村人たちのおかげで、桜並木は完成した。

 精霊たちが粘ったおかげで、私の背丈くらいまで成長したので、花が咲く頃にはちょっとしたものにはなるだろう。


 今日もしとしと雨なのは変わらない。こんな日は家での手仕事に集中する。

 暖炉の前に座りながらチクチクと縫っているのは、よだれかけ。この春から初夏にかけての村のベビーラッシュのために、冬の間、暇ができると縫っていたのだ。

 今のところ、赤ちゃんの予定は5組の夫婦。

 先に妊娠がわかったボドル、リリス夫婦と、コントル、ケイト夫婦。こちらは、そろそろ生まれてもおかしくないそうだ。

 次にわかったのがママ軍団で、お腹が目立ち始めている。

 先日、ネドリたちパパ軍団がエイデンと帝国のダンジョンに潜っていたのは、獣人たちの赤ん坊に持たせる『守り石』というのを採るためだったのだそうだ。

 実物を見せてもらったのだけれど、拳大のゴツゴツとした原石という感じながらも綺麗な透明な石で、最初は水晶かと思った。話を聞くと、クリスタルリザードと呼ばれるトカゲの魔物の額に埋め込まれている魔石なのだとか。


 ――そのまんま、水晶とは違うのだろうか。


 とは思ったけれど、あえて言わなかった。獣人には獣人の、こだわりや慣習というものがあるのだろう。


「よーし、出来た」


 私の手には、完成したレモンイエローのタオル地のよだれかけ。

 完成品はまだ4枚しか出来ていない。次のよだれかけを作るために、すでに切ってある生地に手を伸ばした時、暖炉の前の猫ベッドで『魔王の卵』を抱きかかえているマリンの姿が見えた。

 イグノス様から預けられた時は、綺麗な薄いアイスグリーンだった『魔王の卵』だったのだけれど、今、マリンが抱えている『魔王の卵』はほぼ白に近い色になっている。

 最初、ログハウスに持ち込んだ時は、威嚇さえしたマリン。

 丸い竹籠(ノワールの卵時代のお古)にブランケット(同じくお古)に包んだ『魔王の卵』を暖炉の前に置いたら、じーっと見つめて離れなくなった。

 そのうち、ちょいちょいとつつきだし、ついにはブランケットごとコロリと籠から取り出して、抱え込んだ。

 さすがにこの状態はまずかろうと、猫ベッドを出したら、今の状態に至っているわけだ。

 気が付くと、ぺろぺろと卵を舐めている様子に、卵相手に毛繕いをしている模様。 


 ――『魔王の卵』を抱える聖獣って、なんかシュールだわ。


 フッ、と鼻で笑いつつ、次のよだれかけを縫い始める。

 

『さつき~』

『ガズゥがくるよ』

『テオとマルもいっしょよ』

「え?」


 縫い物に集中しているところで、精霊たちが声をかけてきた。

 窓の外は、まだ雨が降っているようで、薄暗い。

 こんな天気の中、わざわざどうしたんだろう、と、心配になりながらも、子供たちのために暖かい飲み物を用意するか、と立ち上がった。


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